コラム

ワインで対談

企業が求める人材になるため何をすべきか – 人事・戦略コンサルタント松本利明さん×セレブレイン関伸恭【前編】

企業が求める人材になるため何をすべきか – 人事・戦略コンサルタント松本利明さん×セレブレイン関伸恭【前編】

セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第6回ゲストは、人事・戦略コンサルタントの松本利明さん。5万人以上のリストラと6000名以上の次世代リーダーの選定・育成に携わられた「人材の目利き」のプロフェッショナルです。1月に発売された著書「ラクして速いが一番すごい」が大ヒット中の松本さんに、企業が求める人材の条件とパーソナルブランディングについて伺いました。聞き手はセレブレイン パートナー HR Techコンサルティング事業担当・関 伸恭が務めます。

第6回ゲスト:松本 利明さん略歴
プライスウォーターハウスクーパース、マーサー・ジャパン、アクセンチュアなど大手外資系コンサルティングファームのプリンシパル(部長級)を経て現職。24年間で外資系、日系の世界的大企業から中堅企業まで、600社以上の人事改革と生産性向上の実現を支援する。現在は、企業向けコンサルティングに加え、「すべてのムダをなくし、自分らしく、しなやかに活躍できる世界」に変革していくために、「持ち味の見つけ方、活かし方」をビジネスパーソンのみならず学生にも広めている。「ラクして速いが一番すごい」をはじめ、多数のベストセラーを執筆している。

大企業へのアドバイスから個人のキャリア相談まで――松本さんの多彩な仕事ぶり

関:松本さん、あじる亭カリフォルニアにようこそ。あじる亭カリフォルニアは、カリフォルニアワインとこだわりの炭火焼料理を楽しむお店です。松本さんは、ワインはお好きでしょうか?

松本:好きですよ。お酒は大好きで、“シングルモルト普及委員会”というウイスキー入門者向けの試飲会を開催しているくらいです。ワインも好きですが詳しいわけではありません。というよりもあえて詳しくならないようにしているといいますか……ワインは奥が深いので、詳しくなろうとするとどんどん凝ってしまいそうなので(笑)。

関:(笑)。今日はぜひ楽しんでください。まずはスパークリングワインで乾杯しましょう。

松本:スパークリングワイン、おいしいですね。

関:食欲がわきますよね。今日は人事の話題を中心にいろいろとお話を伺わせてください。

松本:こちらこそよろしくおねがいします。関さんはセレブレインの前はどちらにいらっしゃったのですか?

関:前職はタレントマネジメントシステムを提供している会社で、セールスとマーケティングに携わっていました。その後、ご縁があってセレブレインに。松本さんが独立されたのはいつ頃ですか?

松本:約5年前ですね。20年以上は外資系大手のコンサルティング会社で人事分野のコンサルティングをした上で、40歳を過ぎたら独立してコンサルタントをすると決めていたんです。

関:そうでしたか。おっと、最初の料理がやってきましたよ。店長の加藤さん、ご説明をお願いします。


店長/加藤:最初のお料理は、「フランス・ロワール産ホワイトアスパラのサラダ 生姜とレモンの香り」と「昆布と真鯛のカルパッチョ」です。

松本:これはおいしいですね。ホワイトアスパラは香りが爽やかで、スパークリングワインにも合います。カルパッチョも身がしっかりしていてすばらしい。

関:ホワイトアスパラの食感も良いですし、緑が映えます。昆布締めも旨味が広がりますね。さらに食欲がわいてきました(笑)。

店長/加藤:合わせるワインはカリフォルニアの産地、ナパ・バレーのシャルドネ「マヤカマス・ヴィンヤーズ シャルドネ」です。特に90年台のカリフォルニアワインはインパクト重視で、しっかり樽を利かせるものが多かったのですが、こちらは樽を利かせつつも派手ではなく、クラシカルに造られたシャルドネです。旨味たっぷりの真鯛と相性抜群ですよ。

関:まろやかな品のある味わいですね。

松本:香りもよく、ぴったりですね。次のお料理とワインも楽しみになってきました。

関:松本さんは人事を中心とした企業へのコンサルティングサービスから書籍の執筆までとても幅広くご活躍されていますが、最近はどのような仕事に関わられることが多いのでしょうか?

松本:好きな仕事しかしていないのですが(笑)。基本的には企業を対象にした経営・人事領域のコンサルティングが多いですね。コンサルティングに加えて、本の執筆やメディアへの寄稿、個人のキャリア相談に乗ることもあります。

関:そういえば、東京ワーキングママ大学で女性のキャリア開発支援をされているとお聞きしました。

松本:はい。東京ワーキングママ大学は、子育てをしながら自分らしいリーダーとして活躍するためのビジネススクールになります。働く女性を支援するという主旨に賛同しまして、講師や受講者のキャリア開発支援を行っています。

関:そうなのですね。数多くの会社で人材開発に携わられた松本さんのアドバイスがあれば百人力ですね。

松本:私は、企業への人材紹介や私塾などは行っていないので、そういう意味では無理に転職を勧めたり、私塾に勧誘したりすることがないので、客観的に本音でアドバイスができるというのはありますね。

関:なるほど。

松本:少し前に行政関係の仕事で、50歳前後で大企業から成長産業へ転職する方々のキャリア指導の講座を受け持ったのですが、通常そういう方の転職成功率って2%くらいなんです。ところが私が担当したら、3年連続で25%以上の方がご自身が満足されるキャリアへ転身をすることができました。

関:それはすごいですね! 50歳を過ぎてキャリアチェンジをはかるというのは、簡単なことではないと感じます。

松本:私は毒舌なので、いきなりこう伝えるんです。「50歳をすぎて会社を移るということは、アルバイトか幹部として向かい入れられるかの二択しかない。それ以外の発想はなくしてください」と。

関:厳しいコメントですね。

松本:相談者の方々のそれまで生きてきた人生は決して間違ってはいません。それでも転職がうまくいかないのは、これまで培ってきた経験から何を引き出せば勝てるのか教わっていないからです。要は“大人の自己紹介”がきちんと出来ていないのです。私は企業側がどのような人材を求めているか理解していますので、その重要性を伝えることができます。

関:それはぜひ伺いたいですね。その前に次のお料理がきました。

欠点やコンプレックスこそ自分の“持ち味”にするべき

店長/加藤:続いては「スキレット スライダー」です。スライダーというのはミニハンバーガーのことで、こちらは牛肉の味噌煮込みを中に入れてあります。ワインはサンタバーバラの涼しい味わいの「ピエドラサッシ PS(ピーエス) シラー 」をご用意しました。

松本:これは見た目が可愛らしいですね。

関:ミニハンバーガーのことをスライダーというのですね。はじめて知りました。

松本:うん、おいしいです。味噌煮込みということで、少し和のテイストを感じます。

関:赤ワインのエレガントな果実味がマッチしますね。想像以上にぴったりの味わいです。

松本:ワインとお料理がお互いに引き立て合う組み合わせですね。すばらしい。

関:お話を戻して、先ほどの“大人の自己紹介”についてもう少し詳しく聞かせていただけますか。

松本:普通は自分の実績や強みをPRしがちですが、それでは他者と差別化ができません。「ソニーで30年」「パナソニックで29年」など、本人達はPRしているつもりでも、採用側からみるとどんぐりの背比べなのです。大人の自己紹介は「私がその会社にリソースとして加わることで、こんな課題をこう良くできます。それを証明する根拠となる実績はこれです。」と自己PRの1行目に書くことです。コツは強みではなく、持ち味から提供価値を考えることです

関:持ち味と強みの違いを教えていただけますか。

松本:強みは他の応募者と被りやすいものですし、もっと強い人がでてくれば負けます。持ち味は心理学でいう資質です。20歳くらいまでに形成される価値観・性格・根本的な動機で、一度形成されると変わりにくいものです。50歳前後となると資質を活かしたエピソードや実績はあるものです。その中から相手の企業で喜んでくれそうなものを取り出すのです。

関:なるほど。確かに強みは他の応募者と被りやすいですね。ただ、新卒採用の時に習った強みを自己PRするという以外のやり方をアラフィフの方々は受け入れてくれるのですか?

松本:大企業でずっと働いてきた方々にはプライドが高い方も多いので、私のやり方ではまずは10社くらい受けていただいて落ちるところからスタートします。

関:いきなり心が折れそうですね(笑)。

松本:そこからがスタートです。適性試験や実習を通して資質を浮き彫りにして、大人の自己紹介を作り込みます。そのプロセスで忘れていた本当の自分の良さを抽出し、伝え方を学ぶのです。

関:その人が輝ける道がきっとあるはずですよね。特に成長途上のベンチャー企業は、経験のある人材を求めています。

松本:そうですね。大事なことは「自分が入るとその会社がどうなるのか」という仮説を立てること。それは意外なところにあるかもしれません。たとえば、とある方は専門能力としては一見パッとしないようにみえましたが、部下が一人も辞めていないという実績がありました。ということは、どんどん人が辞めていってしまう企業の管理部門ならニーズがあるのではないかという仮説が立てられます。それを実際に書いていただいたら、すぐに決まりました。

関:直属の上司との人間関係、というものは職場でいきいきと働くにあたっての重要なファクターですよね、退職理由のランキングで取り上げられることも多いですし。

松本:ポイントは、自分自身の欠点やコンプレックスというものは、実は個性につながっているということです。たとえば太っているという特徴は一般的に欠点と思われるかもしれませんが、見方によっては癒し系といえるかもしれません。人間は自分をかっこよく見せたくなりますが、本当の魅力というのはむしろ、欠点をうまく見せることで伝えられるのです。

関:そういうものを見つけることができれば、転職においても強い武器になるということですね。

松本:一つ、例としてお話しましょう。昔の編集者はお酒が飲めることが大事でした。なぜなら、作家の先生と付き合うためには一緒にお酒を飲めないといけなかったからです。ところが、とある編集者の方はお酒が全く飲めませんでした。

関:それは困りますね。欠点を克服するなら、少しでもお酒を飲めるように頑張る方へ向かいそうですが……。

松本:酒が飲める編集者はたくさんいます。そのため、その方はそこで勝負してもしょうがないと考えました。ただ話をすることや聞くことは上手でした。そこで、作家先生が考えていることを先回りして調整していったそうです。その結果、お酒の場でのコミュニケーションがなくても、信頼をされるようになり、うまく仕事を進めることができるようになったのです。酒が強い編集者はたくさんいるが、こまごましたことを調整してくれて執筆に集中させてくれる編集者は他にいないと。持っている資質を活かすことでオリジナルな存在になれば強いのです。

関:これまで必ず必要と思われていたことができなくても、自分の得意な領域に注力することで、相手との信頼関係を築くことに成功したのですね。今のお話は参考になるという方も多いのではないでしょうか。

ここまで前編では、松本さんの多彩な仕事ぶりやキャリア開発に取り組んでいく上での重要な視点について話し合ってきました。

次回の後編では、企業に求められる人材になるために大事な視点とは?にフォーカスをあてて詳しく語っていただきます。

今回のお店
あじる亭カリフォルニア

赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワインと炭火焼きのダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類以上の品揃え。ソムリエ資格をもつシェフがカリフォルニアキュイジーヌとワインを絶妙にマリアージュし、腕を振るっています。
(都合により4月末日を持って閉店しています)
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