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人事の「脱Excel」は幻想? 現場に求められる「Excel力」とデータリテラシー

DXの加速や多様なツールの普及により、昨今人事の現場では「脱Excel」が進んでいます。しかし一方で、現場の人事担当者からは「やっぱりExcelが便利」との声も根強く聞かれます。つまりExcelには、いまだ現場で重宝されるだけの強みがあるのです。そこで本記事では、Excelを取り巻く現状や“それでも使われる理由”、これからの人事に求められるExcelスキルやデータとの向き合い方などについて解説します。
Excelを取り巻く現状とジレンマ
皆様の業務においてExcelは欠かせない存在でしょうか。近年はAIやBIツール、タレントマネジメントシステムといったHRテクノロジーの導入が進み、多くの企業で「脱Excel」できるのではないかと期待値が高まっています。ところがAIやBIツールの進化が加速してもなお、「結局Excelの利用シーンは大して減らない」という現場の声が後を絶ちません。
Excelには、「自由度が高すぎてミスを防ぎづらい」「Excelスキルの高い人に業務が集中しがち」「集計や共有に手間がかかる」といったデメリットがあります。しかし一方で自由度や学習コストの低さなど多くのメリットもあります。そのため人事担当者の多くは、Excelに依存しすぎることへの不安を抱えつつも、「やっぱりExcelのほうが便利だ」というジレンマに直面してしまうのです。
こうした現状を踏まえると、HRテクノロジーが普及した今こそ、Excelの強みと限界を見極め、テクノロジーとの「最適なバランス」を見つけることが重要だと言えるでしょう。
Excelの課題と “それでも使われる理由”
Excelは前述の通り、セルの上書き、計算式の誤消去、バージョン管理の難しさなど、自由度が高すぎるがゆえにミスが発生しやすいというデメリットがあります。またExcelスキルの高い人に業務が集中してしまったり、ファイルがブラックボックス化したりしやすく、担当者が異動する際に引き継ぎが途切れがちなのも課題です。さらにデータの一元管理も難しく、同じデータが複数ファイルでバラバラに管理されるといったリスクもあります。
こうした課題がありながらも多くの現場でExcelが主流となっているのは一体なぜでしょうか。
まず何よりExcelは学習コストが低く、誰でも最低限の機能は使うことができます。またデータの整形、グラフ作成、デザインなどの作業において自由度が非常に高く、コメント機能やセル結合、図形挿入など、情報共有や強調がしやすいのも魅力です。さらに多くの業務で必須のビジネスツールとして浸透しているため、どんな職種・部門でも共通言語として使える、まさにユニバーサルツールだという一面もあります。こうしたことから共同作業や引継ぎ、現場との連携という面でも非常に役立つでしょう。
また、役員や現場とのやり取りの際にExcelの利用が求められるケースも少なくありません。例えば、BIツールは膨大なデータを多角的に分析できる有用なツールではありますが、誰もが高度な分析スキルを持っているわけではないため、画面の見方を理解できるのは一部の人に限られてしまいます。その点、Excelはシンプルな棒グラフや円グラフで見せることができるため、誰にとっても伝わりやすい、まさに使い勝手の良いツールなのです。
実際、分析ツールで統計分析を行ったものの、役員への説明用に結局Excelでグラフを作成する、といったケースも珍しくないでしょう。
人事部門でExcelが活躍する具体的なシーン
では実際に、Excelは人事の現場でどのように活用されているのでしょうか。具体的な活用シーンとして以下のようなものが挙げられます。
- データ集計
・分析業務・勤怠、給与、人事異動データの集計
・各種サーベイやアンケートの集計・グラフ化 - 各種入力用シート
・目標管理・人事評価シート
・届出・申請フォーマット(交通費申請、扶養申請など) - 配置図や組織図の作成
・データベースから落としたデータをExcelで整形し、配置図や組織図を作成
・図形や色分け、コメント挿入で視認性を高める - 報告レポート
・資料作成・会議資料や役員説明用資料の作成
・BIツールで作成したグラフをExcelに貼り付けて再編集 - データの加工・整形
・CSVデータのデータ加工(不要行・列の削除、数式による再計算など)
・データの「見やすさ」や「伝わりやすさ」を重視した加工 - 共同作業・引継ぎ
・複数人でのファイル編集、コメントでのやりとり
・引継ぎ時に「どこをどう見ればいいか」を説明しやすい
目指すべきは「脱Excel」でなく「脱Excel依存」。人事に必須の2つのExcelスキルとは
これからの時代は、HRテクノロジーとExcelなどの既存のツールを目的に応じて活用できる「データに強い人事」になることが、人事個人のキャリアにとっても、部門の業務効率化にとってもますます必要になっていきます。つまり目指すべきなのは、「脱Excel」ではなく、Excelの利点・弱点をきちんと理解し、適材適所でテクノロジーと使い分ける「脱Excel依存」なのです。
そこで人事がまず身につけたいのが、次の2つのExcelスキルです。1つ目は、データの異常や違和感に気づく「感度」。2つ目は、誰でも迷わず使える「引き継げるファイル作成」の力です。以下にそれぞれのポイントをご紹介します。
- データへの「感度」を高め、違和感に気づけるようになる
AIやBIツールが普及するにつれて、元データの正確性がより重要になっていきますが、そこで求められるのが、データ記載ミスや外れ値といった“違和感”に気づく力です。ツールの「自動化」に慣れてしまうと、データに対する感度が鈍り、集計結果の誤りに気付きにくくなってしまいます。
一方、手作業が介在するExcelはデータの誤りに気付きやすいので、まずは日頃からExcelで生データに触り、異常値や不自然さを見抜くスキルを身につけておきましょう。そうしてデータの内容理解が進むことで、AIやBIツールも、より効果的に活用できるようになるはずです。
Excelを「整形ツール」としてではなく、データ分析や検証のための表計算ソフトとして活用する意識が、データに対する洞察力を高めます。ぜひ意識してみてください。
- 誰にでも引き継げるファイルを作る
Excelは“自分だけがわかるツール”になりがちです。実際に「ファイルのバージョン違いで混乱した」「担当者が異動した途端、誰もファイルを触れなくなった」といった話は非常によく聞かれます。
そうした事態に陥らないためにも、ファイルやシートの構造、数式、データの意味を明確にしたり、コメントや説明書きを活用して誰が見ても理解できる状態にしたりするなど工夫を心がけましょう。特に、関数をネスト(入れ子構造)しすぎないなど、Excelが苦手な人でも扱いやすい設計にすることが重要です。
分析に必要なのは“ストーリー”
最後に、データ分析における重要なポイントをお伝えします。皆さんはデータを集めた後、一体何をどう分析したらよいのか悩んだり、サーベイを分析したりするだけで満足したような経験はありませんか。
データ分析はその後のアクションに繫げなければ意味がありません。そのため重視しなければならないのは、データ分析の目的を明確にすること。「何を明らかにしたいのか」「どんなアクションに繫げたいのか」を最初に決めることが大切なのです。
筆者は昔、分析について次のように教えられました。「メニューを決めず、ただ食材だけを集めても料理にはならない。例えばカレーを作ると決めれば、必要な材料や手順が明らかになる。分析も同様、ゴールを決めてから必要な材料を集めるべきだ」と。つまりこれはストーリーに合わせて分析する必要があるということです。まず全体を俯瞰し、課題感を1つ見つけて、その要因を仮説立て、データで検証する。このような「仮説」→「データ確認」→「アクション決定」の流れを意識した、一連のストーリーづくりこそ重要になります。アクションにフォーカスすることで、欲しいデータやAI活用の方向性もより明確になるはずです。
Excelとテクノロジーの共存が生む、新しい人事のかたち
ExcelでもBIでも、道具は使い方次第です。まずはストーリーを描き、そこに向けて何が必要なのかを見極めたうえで、適切なツールを選んでください。またその際は「脱Excel」ではなく、「Excel依存からの脱却」という視点で、柔軟なツール選択を心がけましょう。これまで現場で培ってきた知恵や経験と新たなテクノロジーを組み合わせることで、より良い人事業務・業務効率化が実現できるはず。ぜひ皆さんも、「現場力×テクノロジー」で新しい人事の未来を切り拓いていってください。
セレブレインでは、理想ありきの「脱Excel」ではなく、現場で定着しやすい柔軟なツールの選択・活用についてご相談を承っています。現場で確実に機能する仕組みづくりにお悩みの企業様はぜひお気軽にお問い合わせください。