解説 2022年4月10日 5分でわかるVUCA時代とOODAループ 現代の社会はVUCA(ブーカ)の時代と呼ばれています。新型コロナウイルス感染症や世界各地で起きる災害や紛争による環境変化、AIなどテクノロジーの進化が社会に及ぼす影響など、社会経済環境の予測が困難な時代という認識を示す言葉です。今回は、VUCAの時代に求められる企業の在り方や人材の資質について解説します。 [目次] VUCAの意味とは? VUCA時代を読み解く VUCA時代に求められる資質と行動 VUCA時代に注目されるOODAループ まとめ VUCAの意味とは? VUCA時代を読み解く VUCAとは「Volatility」(変動性)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、「Ambiguity」(曖昧性)の4つの言葉の頭文字からなる造語です。 キーワードごとに「予測困難」な現状を解説します。 ・Volatility(変動性) IT技術の進化や市場の成熟により消費者ニーズは多様化・細分化しています。既存ビジネスモデルが陳腐化するスピードが速く、企業には常に変化をキャッチアップした斬新な商品開発が求められます。 ・Uncertainty(不確実性) 新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻などでも顕著なように、海外の事象も瞬く間に世界経済に影響を与える時代です。ビジネス上も常に想定外の出来事、リスクを引き受ける必要があります。 ・Complexity(複雑性) グローバル化が進むなか経済とそれぞれの国家の文化・法律・慣習とのせめぎあいが起きています。国際政治経済のトリレンマ(国家主権、グローバル化、民主主義は同時に3つ実行できない)理論で考えると、世界市場はますます複雑化すると予測できます。 ・Ambiguity(曖昧性) ネットワーク社会では業界の垣根があいまいになり業界内外から自社の代替サービスが登場してきます。予測には限界があり常にあいまいな状態のなかで意思決定する必要があります。 VUCA時代に求められる資質と行動 VUCA時代に企業・個人が持つべき資質、行動を解説します。 ・明確なビジョン 未来の予測が困難だからこそ「自社・自身がどうあるべきか」というビジョンを明確に持つことが重要です。芯となるビジョンが確立されていれば急激な変化にも柔軟に対応できます。 ・短期間での成果創出 5~10年後の近未来も見えづらい時代なのでスピード感を持って事業を進める必要があります。個々の働き方においても短期間で効率よく成果を上げる能力が必要です。 ・情報収集と実行 常に最新の情報をアップデートし学習する力が重要です。仮説を立てて動きながらも仮説に固執せず、必要があれば速やかに別のプランを打ち立て実行・検証していく力も必要です。 ・多様性・持続可能性を高める 多様化する社会に対応するためには企業内に多様な人材が必要です。また、企業には一事業に固執せず複数の事業を柔軟に手がける力、個人にはどんな組織・環境でも働き続けられる力が求められます。 VUCA時代に注目されるOODAループ VUCA時代に役に立つ思考法に「OODAループ(ウーダ・ループ)」があります。米国空軍で、兵士が現場で速やかに状況判断するために生まれた意思決定プロセスで、PDCAに代わるものとして徐々に広まってきています。 以下の4ステップを「ループ」させるところはPDCAと似ていますが、必ずしもその順序を徹底する必要はなく、経験や状況に応じてスピーディーに意思決定できる点が特徴です。 (1)観察(Observe)→(2)状況判断(Orient)→(3)決定(Decide)→(4)実行(Act) (1)観察(Observe) 事象、市場等の状態を観察する (2)状況判断(Orient) 従来の経験や新しい情報などを分析し、価値判断を含んだ情報にする。状況判断が行えないと判断したら(1)に戻る。 (3)決定(Decide) (2)の判断をもとに、行動を決定する。状況に変化が生じた場合などは(1)または(2)に戻り、再度決定を行う。 (4)実行(Act) 「意思決定」段階で決定した計画を実行する。実行後は(1)に戻る。 (2)(3)(4)については随時(1)の「観察」段階へ戻ることで、意思決定を柔軟かつスピーディーにできます。ただし「状況判断」のプロセスで経験や知見を加えることを前提としているため、ビジネスでは主に中堅社員以上が対象となり、自走を促すプロセスとして導入されています。各段階を可視化しマネジメントに活かす場合はPDCAサイクルの方が向いているでしょう。 ビジネスのサイクルが早まり、テレワークも浸透する昨今では従業員の自走と素早い判断はますます求められています。OODAを学ぶことはVUCA時代に有用と言えるでしょう。 まとめ 新型コロナウイルス感染症による世界経済への多大な影響、テクノロジーの進化により変わりつつある社会の仕組や人々の行動。現代は長期予測はおろか中短期予測も困難なことからVUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性の意)の時代と呼ばれています。 VUCAの時代には核となるビジョンを持ち、情報収集をもとにこれまでの仮説をときには大胆に再構築し、臨機応変に判断しながら成果を創出していく力が必要です。想定外のことが頻繁に起こるため、必ずしも経営層が最適解を出せるとは限らず、現場の人材が状況を観察しスピーディに判断したほうがよい結果につながるケースも増えていくでしょう。 OODAループは、変化の激しいVUCAの時代に企業や個人がチャンスを掴んだり危機を回避するために役立つフレームワークだと言えます。 OODAループ VUCA
解説 2021年10月01日 体験型ギフトをインセンティブに!エンゲージメントを高める新たな報酬システム 従業員のモチベーションやエンゲージメント向上にはマネージャーや同僚からの「評価」が非常に有効であり、近年は「評価」を給与・賞与以外での報酬として付与するインセンティブ制度が多くの企業で導入されています。 「ポイント制」「ピアボーナス」、昨今は「体験型ギフト」を報酬とするユニークなサービスも登場しています。本記事では「体験・アクティビティ」を報酬として従業員に贈るプラットフォーム「Blue Board」を紹介します。 エンゲージメント モチベーション
解説 2021年9月10日 ラーニングプラットフォームの新時代 グローバル化、デジタル化、加えてパンデミックに伴う社会やビジネス環境の激変。これまでの予想をはるかに超える変化が次々に起こる時代は、脅威に際してもゆるぎない意志と問題解決能力で立ち向かい、機会を最大限に活かせる従業員の能力、スキル、精神力が重要になります。企業が従業員の学びに投資することはもはや必須の時代でしょう。 今年も9月28日~10月1日に開催が予定されている「HR Technology Conference & Exposition®」ですが、昨年の基調講演において、従業員に仕事をしながら学んでもらうこと、ハードスキルだけでなくヒューマンスキルを学ぶ重要性などについて言及がありました。また、HRテックが人事担当者向けのHR Techから従業員を軸にした「Work Tech」へ変化していることにも触れています。 本記事では、同講演で言及された新時代のラーニングシステム「ラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム(LXP)」「マイクロラーニング・プラットフォーム」「プログラム・デリバリー・プラットフォーム」を紹介します。 HRテクノロジー マイクロラーニング ラーニング・エクスペリエンス・プラットフォーム ラーニング・マネージメント・システム
解説 2021年8月10日 自社のM&A、そのとき人事は何をすべきか? 買収後のPMIでつまずかないため のポイントとは 企業にとって、一世一代のイベントであるM&A。近年その件数は右肩上がりです。M&Aには、統合によるシナジー創出を実現し、企業価値を向上させるという大きなメリットがある反面、統合後に人事・組織的な課題が噴出するケースも多くみられます。 本コラムでは、特に買い手側の企業がM&Aで陥りやすい失敗や、人事がPMIで気を付けるべきポイントと対策について、人事専門コンサルティングファームならではの視点でお話しします。 M&A PMI 成長する組織 業務効率化 組織風土
解説 2021年6月29日 社員の多様性等についての情報収集・分析 近年は企業経営において人材の多様性(ダイバーシティ)を推進していく取り組みが進み、さまざまな企業が多様な従業員にとって働きやすい環境・企業風土の組織を目指しています。女性管理職の数が増えた企業や、日産自動車の「note」、キリンビールの「カラダFree」のように多様性をブランド開発に活かすなど、強みに転換できた企業も増えつつあります。 本記事では多様性とはどのような概念か?企業が多様性を重要視する理由は何か? 「HR Technology Conference & Exposition2020」のTop HR Productsに選出された従業員の多様性データ収集・分析プラットフォーム「Pluto」について解説します。 HRテクノロジー イノベーション ダイバーシティ
解説 2021年5月27日 HR情報開示の義務化、知らなければならない「ISO 30414」 近年、多くの日本企業から注目されている「ISO 30414」。国際標準化機構(ISO)のガイドラインであるISO 30414とは、アメリカではすでに上場企業に義務化されている「人的資本に関する情報開示」について定めた、世界初の国際規格です。 ビジネスのグローバル化が進むなか、日本企業が生産性や企業価値を高めていくためにも、今後は国際的な運用ルールに沿った人事情報の開示を進めることが必須になっていくでしょう。 それでは、ISO 30414とは具体的にどのような規格なのでしょうか。制定された背景や今後の日本企業の人事部門にもたらす影響について解説します。 ISO30414 国際情勢 情報開示
解説 2021年3月01日 正解のCEO採用は?後継者候補は誰を育てる?「失敗しない」決断をサポートする、最先端のアセスメントとは 人材不足が叫ばれて久しい昨今ですが、未来を担う経営人材の抜擢や重要ポジションの採用は、さらに悩ましい問題です。セレブレインは、卓越した人事コンサルティング力と、HRテクノロジーの活用力により、人事に関わる課題解決をサポートします。ここでは、Profiles社が開発した人と職務のフィットを測定するアセスメントツール「ProfileXT®」を活用した事例を紹介します。 ProfileXT (PXT) アセスメント 採用 活躍人材 適材適所
解説 2021年1月26日 テクノロジーを活用した新たなコーチングとは? 多くの企業が人材開発の一手法として取り入れている「コーチング」。コロナ禍でのリモートワークの浸透、コミュニケーションのデジタル化によって、ますますその有用性が注目されています。コーチングは対面でのコミュニケーションが基本ですが、昨今はAIなどのテクノロジーを活用することで従来のスタイルよりも科学的、効果的に進化しつつあります。今回は、デジタルツールを活用した新しいコーチングのスタイルを紹介します。 [目次] コロナ禍で高まるコーチングのニーズ コーチングとテクノロジー デジタルツールで革新的なコーチングへ まとめ コロナ禍で高まるコーチングのニーズ これまで企業が人材育成にコーチングを取り入れてきた主な理由は以下の2つです。 (1)価値観の多様化による、社員の抱える個別課題に対応 時代や社会環境の変化に伴い、社員の価値観は昔よりかなり多様化しました。また、変化の速いビジネス環境下で社員が直面する課題の個別性、複雑性も高くなってきましたが、コーチングはコーチが対象者の業務に詳しくなくとも傾聴と適切な質問で相手に気づき・行動変容を促せる手法なので、一人ひとりをオリジナルな解決策に導く効果がありました。 また、課題解決にまでは至らずとも心理状態や悩みを聞いてあげることでメンタルの安定につながるなど、ソフトランディング的効果もあったと言えるでしょう。 (2)経験学習の効果 不確実で複雑性が高く、変化のスピードが速いビジネス環境に対応するには、業務のなかで「経験→省察→概念化→実践」といった経験学習のサイクルを効果的に回すことが大切です。コーチングならコーチが第三者の立場から個人の省察や行動実践などを促すことができます。例えば、経営幹部向のエグゼクティブコーチングなら、自己認識力が高くなることによるマネジメント力向上や、より高い視座を持つことによる戦略構築力の強化が期待できました。 一般社員のコーチングなら、まったく自分で考える習慣のないいわゆる指示待ち社員も、コーチングを重ねることで自分の行動に自覚的になり、自主性と行動力を増していく効果があります。 直近ではリモートワークの普及によるコミュニケーション上の課題の解決手段としても期待されています。SNSやチャットでは「テキストでは怒っているように見えたが大丈夫だった」といった余計な誤解、違和感が生まれています。このようなコミュニケーションのギャップを解消するのにも有効だと言えるでしょう。 コーチングとテクノロジー コーチングは手法として有効であることは間違いないですが、現実には上司は忙しいためコーチングの頻度は少なく次のコーチングまでの時間も長くなりがちです。人事がそういった状況で費用対効果を見た際に価値観の多様化により一人ひとりに適切な解決策を提示すること自体が難しい面もあります。そこで、注目されているのが先端テクノロジーを活用したコーチングです。コーチングには以下のメリットがあります。 ◆対象者側 ・面談と面談の合間もコーチの協力が得られる ・アセスメントとAIの分析で自分のレベル・課題に適したコーチを受けることができる ・目標に紐づくエビデンスに基づいたコーチを受けることが可能 ◆コーチ側 ・面談と面談の間でも対象者に「一口サイズ」のアクションができる ・対象者のレベル・課題にあった実践的な提案ができる ・システムで一元管理できるため成長の遅い対象者を把握しやすい デジタルツールで革新的なコーチングへ 米国の「HR Technology Conference & Expo 2019」の『Pitchfest(スタートアップ企業コンテスト)』において、コーチングをサポートするデジタルツール『PILOT』が優勝しました。個々の社員のキャリアをデザインし、社員が自発的に成長できる環境を整えられる点が評価のポイントです。 PILOTを活用すれば、スマホやPCを利用して週に10~15分のコーチングが可能です。AIがコーチング結果を分析し次回以降のコーチングに反映するため、コーチング精度も向上します。コーチ側も業務負荷が減り人に向き合うことに集中できるなど、コーチをする側、受ける側ともメリットがあるシステムです。 まとめ テクノロジーの進化、リモートワークの普及などを背景にコーチングの形も変化しつつあります。AI搭載のデジタルツールを活用したコーチングなら、社員に対し精度の高いコーチングを時間は短く頻度を増やして提供することが可能です。学習効果、成長意欲を高めるだけでなく、リモートワークで発生するコミュニケーションのギャップを解消し、社員のパフォーマンスが高まる効果も期待できるでしょう。また、コスト削減にもつながります。 コーチング コミュニケーション テレワーク
解説 2020年12月14日 サーバント・リーダーシップが求められる理由 〜現在の管理職に求められる部下育成と組織力を高める方法〜 近年「サーバント・リーダーシップ」というリーダーシップのスタイルが部下育成や組織力を高めるために求められています。 サーバントとは、直訳すると、奉仕者、召使いのことを指します。トップの画像はボスとリーダーの違いをモチーフにした画像です。下の図のBOSS(ボス)は部下に指示を与えて仕事をさせていますが、上の図のLEADER(リーダー)は自らが先頭にたちチームをまとめあげていきながら、物事を前に進めていきます。 一見すると奉仕者のように見えるこのリーダーが発揮しているのが「サーバント・リーダーシップ」です。 「サーバント・リーダーシップ」は米国のロバート・グリーンリーフ博士によって1970年に提唱された考えに基づいています。「リーダーのために部下がいる」という発想を逆転させ、「部下を支えるためにリーダーは存在する」という考え方をベースにしているのが特徴です。 なぜ今、サーバント・リーダーシップが求められているのでしょうか。 管理職としての仕事とは? 管理職とプレーヤーでは考え方を大きく変える必要があります。 管理職になる前は、一人のプレーヤーとしての成績や評価で優秀かどうかが判断されてきました。しかし、必ずしも優秀なプレーヤーが優秀な管理職になるとは限りません。なぜなら、プレーヤーとして成果を上げる力と管理職として成果を上げる力は全く異なるからです。 管理職の仕事とは、「組織上のミッションと目標を理解し、組織として質的にも量的にも上回る成果を上げること」です。そのためには、与えられたビジネスリソース(人・物・金・情報)を最大限に活用する必要があります。中でも、最も重要なビジネスリソースが人です。各メンバー一人ひとりがその能力を十分に発揮し、大きな成果を上げることで、組織としての成果も大きく向上するからです。 しかし、人の価値観も多様化している昨今、管理者としてチームメンバーそれぞれが成果をあげるよう支援することは簡単なことではありません。 一般的に以下のようなことが部下についての悩みとしてよく耳にします。 "・指示を待っていて、自ら主体的に動いてくれない ・指示してもその通りに動いてくれない ・出来なかったことに、責任を感じているように見えない ・仕事に対する意欲ややる気を感じない ・指導すると、反発したり、内にこもって黙ってしまう " 管理職になると個人の成果とは異なり、チームの成果を求められます。 チームとしての成果を上げることができない場合、経営層から「優秀な人材と見込んで管理職にしたのだが・・・」と言われたり、部下から「課長は自分たちのことを全く信頼していない・・・」などと、双方から批判的なことを言われ、板挟みになることも少なくありません。「部下とどのように向き合うか」「どのような関係を築いていくか」かは組織として成果を出すことを求められている管理職にとっては大切なテーマとなります。 時代とともに求められるリーダーシップは変化してきている ビジネスのスピードが加速し、それとともに求められるリーダーシップも変化をしてきています。 合理性の追求さえしていれば経済成長をしていた時代は、過去の成功体験をもとに上司が正しい答えを持っていました。そのため、正しく指示・命令さえできていれば、チームとしての成果も自然に上げることができていました。 しかし、テクノロジーが既存ビジネスを次々に破壊し、過去の成功体験は通用しなくなってきています。また、働き方改革による就労形態の多様化、ネット時代における情報入手の容易性、それにともなう人の価値観や生き方の変化など、これまでのマネジメントの仕方では人は付いてこなくなりつつあります。 そんななか組織の力を最大限に発揮するためには、上司は部下の自主性を尊重し、支援・奉仕を通じて信頼関係を育み、一人ひとりが前向きに能動的に活動していく環境を作っていく必要がでてきています。 これまでの支配型リーダーシップから、支援型リーダーシップへとリーダーシップのあり方自体に変化が求められているのです。 次回は、この支援型リーダーシップである「サーバント・リーダーシップ」を実践し、どのように部下と向き合っていくのかをお伝えします。 続き:サーバント・リーダーシップの実践 〜管理職の持つ2つのパワー〜 マネジメント リーダーシップ
解説 2020年11月02日 DXの実現に必要な人材とは(後編) DX(デジタル・トランスフォーメーション)の実現にはIoTやAIなど最先端のデジタル技術を活用し、市場の変化にあわせてビジネスモデルを変革したり、新たな価値を創出できる人材を確保することが急務です。 今回は、DX人材を採用する際のポイントとDX人材の育成方法について解説します。 [目次] DX人材の採用手法と採用時の注意点 DX人材育成のキーワード「Reスキル」と「リカレント教育」 まとめ DX人材の採用手法と採用時の注意点 独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)は、2019年、IoTやAIを活用したITサービス市場に従事する先端IT人材の転職方法についてアンケート調査を実施しています。 調査結果では、最先端の技術を持つIT人材の転職方法は「友人・知人等の紹介」や「人材サービス企業からの紹介」がいずれも3割を超え、次いで「ヘッドハンティング」が3割弱です。現在のDX人材の採用は、リファラルなどのダイレクトリクルーティングも主流になりつつあると言えるようです。 転職を決意した理由として最も多かった回答が、「自分のやりたい仕事ができなかったから(34.8%)」であることから、DX人材を採用する際は相手の持つスキルや経験とのマッチングだけでなく、相手が希望する仕事と自社が期待するDX人材としての役割のマッチングがポイントであることがうかがえます。 とはいえ、国内外においてDXの実現に必要な先端ITスキルを持つ人材がそもそも希少なことも事実です。多くの企業は、高額なオファーで厳しい人材獲得競争に勝ち優秀な人材を確保すること自体、困難でしょう。 そこで注目を集めている人材確保の取り組みが、自社内でのDX人材の育成です。 DX人材育成のキーワード「Reスキル」と「リカレント教育」 DX人材の育成には、従来型IT人材から先端IT人材へと転換するための「Reスキル推進」が重要と言われています。 従来型IT人材とは、既存システムの受託開発、保守・運用サービス市場に従事する人材のことです。つまり従来型IT人材を既存システムの維持保守業務から解放しDX分野にシフトさせ、先端IT人材として育成するということです。 事業部門人材のIT教育や適材適所の配置など、IT部門外人材の流動化を促進して先端IT人材を確保するといったアプローチも重要です。この場合、ITスキルの習得からDX人材の育成施策を検討する必要がありますので、いわば企業による「リカレント教育」の推進だと言えるでしょう。 IPAの資料によると、DXの取り組みで成果を出している企業は、一過性でなく継続的かつ全社的に勉強会や啓発のための研修などを行っています。 【例】 •経営層を含む定期勉強会 •CDO 自ら全社員向けにデジタル研修実施 •全社員向けの啓発研修 •海外のスタートアップの情報を現地で収集 •DXメンバー の自発的な最新技術把握・実践 •コンテスト、資格取得奨励、他 また、教育の取り組みが多岐に渡っているほか、組織文化において「リスクを取り、チャレンジ」、「多様な価値観受容」、「仕事を楽しむ」、「意思決定のスピード」という傾向があるという結果も出ています。経営層が中長期的な視点のもと、全社的にデジタル社会に対応できるような教育を実施していることがうかがえます。 しかし、DX人材の育成には時間がかかることや、先端IT人材が従来型IT人材よりも「自分のやりたい仕事」、「クリエイティブな仕事」、「先端的な仕事」を求めて転職する傾向が高いことを踏まえ、外部から人材を獲得する努力を継続することも重要です。もし、マッチングが上手くいき優秀なDX人材を採用できれば、社内の人材にポジティブな影響を与え、人材育成上も大きなプラスとなるでしょう。 まとめ DX人材の育成・採用については、DXの実現が企業の経営戦略上不可欠であることを、まず経営層が強く認識する必要があります。「人材流動化」や「Reスキル支援」は全社的な取り組みがあってはじめて成果を出せるからです。 企業には、個々の社員のキャリアビジョンとITリテラシーを考慮しながら、既存の社員に学び直しの機会を積極的に提供する努力が求められます。採用市場にスキル・経験を保有するIT人材が希少なことを踏まえて、社内リカレント教育を推進するための「Reスキル支援の仕組み・環境づくり」をしていきましょう。