コラム
解説
自社のM&A、そのとき人事は何をすべきか? 買収後のPMIでつまずかないため のポイントとは
企業にとって、一世一代のイベントであるM&A。近年その件数は右肩上がりです。M&Aには、統合によるシナジー創出を実現し、企業価値を向上させるという大きなメリットがある反面、統合後に人事・組織的な課題が噴出するケースも多くみられます。
本コラムでは、特に買い手側の企業がM&Aで陥りやすい失敗や、人事がPMIで気を付けるべきポイントと対策について、人事専門コンサルティングファームならではの視点でお話しします。
右肩上がりのM&A件数。その背景にある3つの要因は
M&Aは、企業の業績拡大や経営課題解決の手段として日本でも定着しており、件数は増加傾向にあります。背景として考えられる要因は、大きく3つ。事業承継、業界再編、そしてM&A仲介業者の増加です。
(1)事業承継
高齢化が進展している日本では、経営者の平均年齢も年々上昇しています。帝国データバンクの調査によると、日本の社長の平均年齢は60.1歳。(2021年1月 全国社長年齢分析 | 株式会社 帝国データバンク[TDB])後継者不在に頭を悩ませる経営者も多く、事業存続のために売却に踏み切るケースが目立っています。
(2)業界再編
もう一つの動きが、業界再編です。特にドラッグストア、飲食、介護施設、人材派遣など、多くの企業がしのぎを削る業界では、生き残りをかけたM&Aの加速により、従来の競争関係が劇的に変わりつつあるのが実情です。
(3)仲介業者の増加
そして、M&Aが加速している3つ目の要因は、”つなぎ役”であるM&A仲介専門会社の増加です。事業承継問題や業界再編によるM&Aニーズが拡大し、それを仲介する専門会社が増えれば、当然M&A市場は活性化します。この傾向は決して一時的ではなく、今後も続くことが見込まれます。
コロナ禍がM&A市場にもたらした影響とは
2020年は、コロナ禍により、ビジネスを取り巻く環境も一変しました。特に、業績が二極化したことは、M&Aの傾向にも影響を与えています。業績が一時的に向上した企業の中には、将来を見据えてM&Aによる多角化に取り組むケースが目立ちます。一方で、業績が芳しくなく、事業継続のために売却を検討せざるを得ない企業もあります。これらの企業をマッチングする動きが、水面下で急速に進んでいるのです。
また、コロナ禍で業績が落ち込んだ企業も、中長期的な視点で買収に乗り出すことがあります。先行き不透明で将来の展望を立てにくい中でも、アフターコロナの業界動向を見据えて準備をする。そのための重要な取り組みのひとつが、M&Aなのです。
買い手側が絶対に忘れてはならない姿勢
このようにM&A市場は活性化していますが、そこには失敗例もあります。一般に多くみられるのは、統合後の経営ビジョンや成長戦略について、両社間で共有できていないケースです。M&Aは、単純な「1+1=2」という足し算ではありません。異なる会社が統合すると、当然文化も違うためコンフリクトは起こりやすくなります。その際、統合により組織が目指す方向性が明確に共有されていないと、組織は混乱し疲弊してしまいます。シナジー効果を狙ったはずが、社員の離職、顧客の離反が起こり、業績の下落やブランドイメージの棄損につながる…といったことにもなりかねません。
では、そのような事態を防ぐには、何をすべきでしょうか。まず、「買い手側のポリシーが100%優先されるべき」という考えは捨ててください。傘下に入る企業にも、優秀で魅力的な社員や組織文化があります。フラットな視点で、売り手側の企業にどんな人材がいて、どんなやり方で成果を上げてきたのかを見極め活かしていくことが、買い手側の使命なのです。
そのためには、組織の機能や人について詳細に把握することが必要です。傘下に加わる会社の主要人材を把握するためにインタビューの機会を設けるといいでしょう。親睦のための食事会ではなく、しっかりと時間を取り、買収されて感じていることや現在の課題、今後取り組みたいテーマなど、集中的に話を聞くようにしてください。
ただし、ひとつ注意点があります。M&Aは情報の機密性が非常に高く、ディールが成立する前に対象企業の人事組織情報を入手することは困難です。そのため、事前にインタビューを進めることはできません。せめて情報入手後すぐに対応ができるよう、事前に準備や体制作りを入念に行いましょう。こうしたアセスメントは、セレブレインが得意とする手法のひとつです。質問の精査も含めて、ぜひご相談ください。
さて、いくつものプロセスを経て成立するM&Aですが、真の意味でその成否を決めるのは、Day1以降のPMIです。ここで人事は、今後の経営体制や描いた戦略の実現に向けて大切な役割を担います。次に、具体的な課題と、人事がすべき対処について紹介します。
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