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戦略的採用が企業の命運を左右する―その2

 適時に適所の適材を確保する戦略的サーチ型の採用が企業の生き残り競争にとって不可欠であることは、前回のコラムで述べた。今回は、適材の採用が必ずしも日々変化する事業戦略と直結しない形で進んでいる企業も多い点について考えてみたい。例えば人事部門による新卒やキャリアの定期採用がそれにあたる。通常応募の母集団を形成し、能力や適性を定型的なテストや面接で判断するプロセスを経て内定から入社に至る。このような採用フローの場合、近い将来、人事部門のスタッフの代わりにAIなどのHRテックを活用することで、採用プロセスの適正化、簡略化、迅速化、省力化が図られていくと思われる。

その一方、会社の経営戦略上重要な新規事業を経営陣が決断したケースを考えてみたい。もちろん、大手企業であれば社内に隠れた適材が存在する可能性もあり、適材候補を外部に派遣したりトレーニングなどで対応させる方法もある。しかし問題は時間である。現代のスピード社会では、数ケ月の遅れが事業の立ち上げに致命的なロスとなる可能性がある。大手企業でも難しい新規の市場、事業、技術などの領域における適材の確保は、中堅企業の場合、なおさら早い段階で外部に目を向け、経営方針と採用を一体化させた戦略的な採用を実践することが現実的で効果的である。

当社がコンサルティングを担当した戦略的採用の一例を紹介する。BtoCの企業A社の経営陣が新たにFintech事業を推進することを検討していたが、消費財を中心とした事業形態ということもあり、金融、ITに経験や知見のある人材が社内に少なかった。戦略コンサルティング会社にコンタクトしたが、提案の内容がA社の思惑と異なっていたため、自社内で事業ノウハウを集約させ内政化することになった。そこでFintech事業の早期立ち上げに中心的な役割が期待できる外部の人材を招へいする案件について相談を受けた。サーチコンサルティングのプロセスとして、会社全体の事業の方向性とFintech事業の位置づけ、組織体制、人材の状況、将来の事業ビジョンなどについて、経営トップ以下幹部層にも詳細なヒアリングを実施した。さらに、人材マーケットの現状に加えFintech関連業界や職種に関する情報と知見を提供し、A社にとって最適と思われる人材像を共有した上で、サーチを開始することになった。

このような戦略的採用のプロセスでは、直接経営トップや事業部門トップと連携し、迅速な意思決定で入社に至るケースが多い。ただし、入社後に人材が活躍できる環境づくりの面では、通常の定期採用をしている人事との協力体制が不可欠である。もちろん企業の経営と事業に直結する視点で戦略的なピンポイント採用するプロセスは、AIなどのHRテックでは置き換えることが困難で、人事部門の存在価値につながる。人事部門の全面的サポートにより戦略的に採用した人材が活躍してこそ、事業競争に生き残ることができる。

最後に、サーチコンサルタントとして重要視しているのは、経営トップとのケミストリーなど、表面的に見えにくいポイントである。人材が入社後、経営陣とシナジー効果を発揮できるかどうかを検証し、アドバイスすることがコンサルタントにとって欠かせない価値の提供である。また時間と労力とお金を費やした戦略的採用人材は、入社がゴールではなく、あくまでスタートであり、その後の定着、活躍に至るまで、コンサルタントが一定のフォローを行うことで事業の実効性を高めることにつながると言える。

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