コラム
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新卒社員を早期に活躍させるためのマネジメント ~早期のキャリア支援と個別対応の重要性~
労働人口の減少が加速する中、若手人材の確保は、多くの企業にとって共通の課題となっています。いかにして今の時代の若者の気質を捉えるかは、常に採用担当者の関心事です。
新卒一括採用が前提となっている日本の採用市場では長らく、その年の新卒者の傾向を「○○タイプ」などのように名づけたり、世代ごとに、「バブル」「氷河期」「ゆとり」「Z」などと分類して理解しようとしたりしてきました。しかし、これらのタイプ分けは個人の特性・資質や潜在能力を捉えるものでなく、あくまで全体的傾向であり、就職活動時の環境や社会の要請による結果に過ぎません。
各企業はこうした全体的傾向を踏まえつつも、新卒者一人ひとりとしっかり向き合い、「個」にフォーカスした見極めや対応を行う必要があります。1on1ミーティングやキャリアカウンセリングなどの個別対応を通じて、一人ひとりの価値観や目標をできるだけ早期に把握し、適切なキャリア支援を行うことが重要です。
では、多くの新卒社員をマネジメントしながら、同時に、一人ひとりが持つ多様な価値観や志向と向き合うには、どうしたら良いのでしょうか。今回は、新卒者に効果的にアプローチし、早期に定着・活躍してもらうための、マネジメントのポイントを解説します。
今の時代を反映した「タイプ」に合わせた、優秀人材確保のためのアプローチ
さて、先ほど「タイプ(全体的傾向)」は就職活動時の環境や社会の要請によって生まれる、と述べました。では、現在はどのような傾向が見られるのでしょうか。
かつての就職氷河期の新卒者たちは、厳しい社会の現実を前に、「自ら努力しなければ道は切り開かれない」と感じており、多くの人が「与えられた仕事に対して積極的に取り組もう」と考えていました。しかし、人手不足が進み、売り手市場となった今日においては、新卒社員は説得型のアプローチによって入社し、それを前提に仕事と向き合うことになります。そのため「自身の自己実現イメージに合わせた仕事を提供してくれる会社で働きたい」と考えている人が増えています。
また咋今は、ネット上に会社や仕事、働くことに関する情報が溢れています。企業は自社の業務内容や社員の様子、積める経験などを公開しており、学生は、入社前から自分の働く姿や将来像がイメージしやすくなります。加えて時代の変化も激しいため、新卒社員の多くは短いスパンで将来を考える傾向も強まっています。
こうした傾向に異議を唱えたくなる人もいるかもしれません。しかし、日本は今後も売り手市場が続く見込みですから、人材の確保のためには、組織の側がこのような傾向にアジャストしていく必要があります。
人材の確保には、採用と離職防止の2つの観点があります。
採用に関しては、昨今の若者は透明性が確保されることを必要なことと考えているため、社内の雰囲気や勤務の実態を、できるだけオープンにすることが欠かせません。求人情報等での明示も良いですが、職場の雰囲気や同世代との交流実態などは特に、エージェントのキャリアアドバイザーから伝えてもらうと、心理的に信頼感が増すためおすすめです。
そして、採用以上に重要となるのが離職防止(リテンション)です。前述したように最近は短期的にキャリア形成を考える若者が増えているため、優秀な人材の定着・活躍のためには、早期に専門性が磨ける環境を整備し、より早い段階で、個人の志向や特性に応じた、専門的なキャリアパスを確立できる機会を提供する必要があります。
全体マネジメントに個人の志向を反映できる「コース別キャリア制度」とは
これまで多くの日本企業では、教育やキャリア支援を一律に行ってきましたが、早期定着や離職防止が求められるこれからの時代は、個への対応が必要不可欠です。一方で、「実務上、限られたリソースでどのように実現すればいいのか」と不安に感じる方もいるのではないでしょうか。
そこで導入をお勧めしたいのが、社員個々の希望や適性に合わせて複数のキャリアパスを用意する「コース別キャリア制度」です。「コース別キャリア制度」とは、自社内でのキャリアパスをいくつかのコースに分け、それぞれに人事制度・教育プログラムを構築するという手法です。
「一人ひとりに合わせて」と言うとハードルが高いと感じる方もいるかもしれませんが、「自社内で実現可能なキャリアパス」という観点で見れば、数パターンに整理できるケースは多いと思います。それを、本人の志向や適性に応じて選択できるようにするのです。社員一人ひとりの多様なキャリア観を尊重しながら、会社の求める方向性と、ある程度まとまったマネジメントをバランスよく達成することができます。また、早期に専門的なキャリアパスが可視化され、必要なスキルセットも明確になるため、会社の方針とのすり合わせやマネジメントがより具体的に進められるというメリットもあります。
いずれは日本もジョブ型に近い人事制度が普及していくでしょう。その過程として能力主義が進み、総合職が減少し、より専門性を意識したキャリア開発・支援が求められるようになります。しかし、今の日本の労働市場を見る限り、まだその時ではないように思います。その点、「コース別キャリア制度」は単純なジョブ型採用とは似て非なるアプローチであり、日本的な雇用慣行との親和性も高いため、導入しやすいと言えるでしょう。
効果的な運用の鍵は“見習い期間”の設置
「コース別キャリア制度」を効果的に運用するには、見習い期間の設定と適性の見極め、専門性深化のための研修、定期的な評価とフィードバックなどが欠かせません。なかでも見習い期間の設定はとても重要です。新卒社員が一定の自立を果たしたと判断されるまでにかかる期間は業種・職種・会社によって大きく異なりますが、いずれにせよ本人の適性を見極めるまでの、いわば見習い期間のようなものは、どんな仕事にも必要となります。
見習い期間の長短は環境(業種・職種・会社)によってまちまちですが、期間が短い環境であれば、業務の中で早期に成功体験を積ませることも比較的容易でしょう。しかし自立までに時間を要する環境の場合は、会社が早期のキャリアマネジメントを戦略的かつ積極的に行っていく必要があります。
「コース別キャリア制度」と似た概念にジョブ型採用がありますが、社会人になりたてのまっさらな人材に対して、例えば「理系学生だからエンジニアになってもらう」などと、一律に分類すべきではありません。理系学生の中にも当然、営業など他の職種に適性を持つ人材はいます。個々の適性を見極めるためにも、まずは見習いとしての助走期間をしっかりと設けること。そしてそこからキャリアコースを見定めて、専門性を枝分かれさせていく、というのが、無理なくコース別キャリア制度を導入するための重要なポイントです。
社員一人ひとりに寄り添ったキャリア支援を
若者を中心に「タイパ」や短期の結果を求める傾向が強い現代において、優秀な人材を確保し、早期活躍と企業の持続的成長を実現するには、本人が早期に自身のキャリアパスをイメージでき、それを着実に実現できるような制度の構築が不可欠です。専門性を身につけるまでのルートをしっかり可視化すると同時に、社員一人ひとりの特性や志向、価値観に合わせたキャリア形成を支援する。それこそがこれからの企業に求められる役割でしょう。これを機にぜひ取り組んでみてください。