コラム

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人事を取り巻く環境変化に乗り遅れないために

人事を取り巻く環境変化に乗り遅れないために

経営環境の変化が加速する昨今、人事部門に求められる役割はますます専門的になり、その業務内容もより戦略的なものへと変わりつつあります。人事の現場では今、何が起こっているのでしょうか。また、これからの人事部門には何が求められるのでしょうか。

M&A、経営戦略との連動…大きく変化する人事部の役割

近年、人事部のあり方や役割は大きく変わってきました。従来はCHROや人事部長が中心となって人事戦略を推進していましたが、現在では人事がビジネス競争力に直結するため、CFOや経営企画担当者も深く関与するようになっています。また事業会社では、営業部門や経営企画部門から人事部門に異動するなどの動きもみられ、経営戦略と人事が密接に関わるのが当たり前になりつつある状況です。当社においても人事部門以外の方からのご相談が年々増えてきています。

昨今はM&Aの増加に伴って、経営戦略の一環としての人材戦略や人事制度の再構築も、より重要性を増しています。多くの事業会社が「成果を出せる人事制度」について模索しているのです。この流れを受けて、経営コンサルティングファームや投資ファンドも人事制度の再構築を支援するようになり、事業成長を支える人材基盤の整備が加速しています。

一方、2023年3月には大手約4000社を対象に人的資本の開示が義務化されました。人材戦略と経営戦略の密接な連動が必要不可欠だという認識は、急速に浸透しています。こうした中、人事部は経営の重要なパートナーとなり、経営に資する戦略人事を実践していかなければなりません。これまでの人事部は、労務管理、人事制度の運用、採用・異動・昇進・昇格の実施、調整といった管理業務やオペレーション業務を主に担ってきましたが、これからは単なる業務管理部門としての役割を脱し、企業の競争力を支える重要な部門へと変化していく必要があります。

今、人事の現場では何が起きているのか

こうしたことを背景に、我々のような人事コンサルタントの業務レベルも高度化・多様化が進んでおり、今まで以上に経営戦略や事業に最適化していくことが求められています。では実際に現場ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
当社の場合、人事制度整備のご支援が多いのですが、その際に、人事部門から事業に対する成果が求められることが増えてきました。

特にM&Aが絡むものに関しては、事業会社からだけではなく、投資ファンドや金融機関からも人事の機能や基盤を整備したいというご依頼・ご要望が増えてきています。人事制度の整備自体を目的にご依頼いただくのではなく、明確な目的意識とミッションのもと、戦略的施策として制度改革を進めたいという相談が増えた点が一番の変化です。

評価や配置、処遇に関しては、これまでは「適性処遇(納得感・公正さ・公平さ)」が重視されてきましたが、今は「適材適所」、つまり、人材の確保や配置の仕組み、各ポジションにおけるエンゲージメントの向上のためにメリハリをつけた制度を構築したい、という観点でご相談いただくケースが増えてきています。

人事と経営の連携という急速で大きな変化には当然、課題もあります。特に、従来独立していた人事部と経営陣の間にはまだ認識や知識のギャップがあるため、認識を摺り合わせながら連携の形を模索していかなくてはならない点は大きな課題です。
経営側は人材の活用に関する現場の知見を理解する必要がありますし、人事はより視野を広げ、経営戦略に関する知見を得るなどアップデートしていかなければなりません。人事コンサルタントはこうした部署間の橋渡し役として連携のサポートを行っています。加えて、企業の経営コンサルタントとも連携することで人事と経営が「人事戦略」を通じてスムーズに連携できるようにお手伝いしています。

事例から紐解く人事の役割の変化

人事戦略における適材適所の人材配置やエンゲージメント向上の仕組みづくりは、昨今、成長戦略の手段の一つと位置づけられ、ますます重要視されています。また従来の公正さ、公平さ重視のアプローチから、柔軟で個別ニーズに対応した人事制度への移行も見られるようになりました。そこでここからは、弊社のお客様の中から、こうした人事施策を実践されている企業様の事例をご紹介します。

①地方の産業材メーカーメーカーA社の事例
それまでは主に国内メーカー向けの部品を製造していましたが、グローバル戦略により海外メーカーとも取引を開始。これに伴い、グローバルビジネスに対応できる人材の確保が急務となりました。また、新しい事業戦略を推進するために、成果・役割に応じた人事マネジメントへのシフト、および技術者を中心とする人材の強化を志向。成果への貢献やスキルに応じた柔軟な人材登用を可能とする人事制度と、スキルズインベントリーの整備を実施し、スキル評価を通じて両者を連携させました。

②人事制度の進化を求めるB社の事例
女性社員の多いB社では、将来にわたり必要な人材を安定的に確保し続けるために、多様な価値観やワークスタイルを包含できる人事制度を導入。例えば、地域限定や短時間勤務といった勤務形態の拡大を行い、ライフステージに応じ、フルタイム復帰も含めた柔軟な選択ができる仕組みを採用しました。またキャリアパスを複数用意し、ワークライフバランスを重視する人には担当業務の成果・貢献に対する適切な報酬処遇を、経営人材として成長を志すには成長機会や昇進への挑戦機会など、キャリアの志向に応じた公平な処遇を提供する仕組みが整備されました。

人事は「経営戦略の一部」から「主要な手段」へ

人事は、経営戦略や事業戦略の“一部”から主要な手段の一つへと変わりつつあります。なかでも重要なミッションとなるのが、人材の確保や育成です。例えば人材確保に関しては、一括採用や適正処遇だけではなく、優秀な人材を引きつけ、定着させるための制度構築が求められるでしょう。加えて、人材の確保や育成は事業の成功に直結するため、「キャリアオーナーシップの醸成」や「成長機会の提供」も重要な鍵となります。それらを実現するためには、一律のスキル評価でなく、事業活動に直結した能力の評価と定量的な可視化に取り組むことが必要不可欠です。

人事制度の変革は単発の取り組みでなく、中長期的な戦略に基づいて行う必要があります。また、「経営資源をどう投下して利益を出していくか」という、財務観点でのアプローチも求められています。
当社でも、そのための人事制度の再構築や可視化の仕組みに関するご支援やお問い合わせが非常に増えており、この流れは今後ますます加速していくと考えられます。これからの人事には、外部人材の活用やプロフェッショナルの登用も含めた、より柔軟で多様なやり方を組み合わせて、人事戦略・組織戦略を作っていくことが必要になるのです。

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