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HRTech時代にExcelは終焉を迎えるのか?

HRTech時代にExcelは終焉を迎えるのか?

 新卒からコンサルタントとして働いている自分にとって、Excelはもっとも情愛を注いだツールと言っていい。クライアントのデータの整理・可視化だけでなく、プロジェクトのスケジュール表や作業工数の見積もりにも活用していた。新しい関数を覚えては「これで作業時間が2分縮まる!」と喜んでいたし、何かメモを取るときにもWordやメモ帳ではなくExcelを開いていた。

 そんな中、昨今は人事の世界でもデータ分析の風が吹いている。HRTechと呼ばれる人事業務とテクノロジーの融合により、評価・勤怠・モチベーション・コミュニケーションとあらゆる社員の情報がデータ化されつつある今、それを分析することで、社員と部門のマッチングや休職予測などに役立てようというものだ。 私自身、過去にExcelをかなり複雑な分析に使用したこともある。計算用のシートを作りながら細かく設定を変えてグラフを作り、変数を変えながら何度も統計解析を行うなかでは、それなりの手間を感じていた。

 しかし、最近はBI(Business Intelligence)ツールにより、簡単にヒートマップのような高度なグラフを作成し、ダッシュボードとして定点観測できるようになった。また、機械学習エンジンを搭載したツールも登場し、R言語と呼ばれる統計解析向けのプログラミング言語を習得することなく、クリックだけでランダムフォレストなどの分析が可能になった。

私も現在携わっているデータ分析プロジェクトで機械学習のツールを活用しているが、昔の苦労が嘘のように簡単に分析でき、更に分析結果がビジュアライズされるので上司やクライアントへの報告もスムーズで、非常に重宝している。

Excelの時代は終わったのだろうか。データの整理すらBIツールなどでできるようになった今、あの表計算ソフトは時代とともに1つの役目を終えたのだろうか。

 私もはじめはそう考えていた。しかし、少なくとも人事コンサルティングの世界では、まだまだ活躍の場が幾らでもあることに気付いたのである。

 例えば評価シートである。新たに人事制度を入れるような会社では、いきなり予算を投じて評価システムを入れることは少なく、「まずはExcelで」と言われることが多い。最終点数の算出欄に計算式を埋め込んでおき、等級に合わせて表示される行動目標が変わるように設定する。更に、それを部門ごとに集計するシート、人事委員会で評語(S・A・B・C・Dなど)を調整するためのシートも用意しておき、Excelで通期評価を実現するのが現実の場では最善である。

また、簡単なシミュレーションツールなどもExcelの活躍の場である。等級毎・評語毎のパラメータを入れれば、賞与の金額を自動で決定するツール。昇格候補の社員だけをピックアップして、残予算と比較しながら昇給金額を調整できるツール。このような使い方も、特にExcelに慣れているクライアントの人事担当者にとっては大変喜ばれる。難しいツールやマクロを使った成果物では、メンテナンスができない。実際に現場で使うツールは使いやすいものでないとダメなのだ。

こうしたExcelの新たな活躍領域には、一つの共通点がある。それは「データを集計・分析するのではなく、シートそのものをデザインすることに価値がある」という点である。

何千行もあるデータからグラフを作成したり、平均値を算出したりするような作業がメインではない。評価シートであれば、シート全体をA3に収めながら、時にはセルを結合し、時には入力対象者別にセルの色を変える。シミュレーションツールであれば、パラメータと結果のシートを分けておき、どのセルが何のパラメータの影響を受けているかメモ書きしておく。

複雑な関数を使うことはなくとも、その分、創造の幅は広がる。「相手にとって使いやすいもの、分かりやすいもの」というポイントをもとに、各シートの設計からセルの幅・高さまで、自由に組めるからである。

 データを整理し、集計し、分析するためのExcelは、日進月歩の強力なツールにより、いずれ取って代わられる日が来るかもしれない。しかし、簡易で使いやすい人事業務のツールとしてのExcelは、間違いなくこれからも活躍し続けるだろう。私にとって、Excelの一つ一つのセルはこれまで共に戦ってきた無数の相棒である。私は、これからも“彼ら”に情愛を注ぎ続けていく。現場の最前線を変えていくのは“彼ら”であるのだから。

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