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大知 俊基

大知 俊基

受講者マインドを醸成する

受講者マインドを醸成する

あるお客様からお聞きした、課長昇格者向けのマネジメント系研修での話です。部下育成・評価をテーマにした講義の場面で、受講者から「〇〇について知らないから教えてほしい」という質問があったそうです(〇〇とは、管理職として理解が必要な人事制度の内容と思ってください)。その研修をオブザーブされていたお客様は、その質問の仕方に少々違和感を覚えたそうです。その受講者の質問の仕方も影響していると思われますが、自分は“知らない”ことが当然で、“教えて”もらうことが当たり前、という雰囲気がありありだったのです。知らないことを質問すること自体は何の問題もありません。ただ、その研修の受講対象者は、今後経営の一端をリーダーとして担っていくことを期待されている方々であったため、スタンスとしては、「知らないから教えてほしい」ではなく「分からないからぜひ知りたい」ではないのかと、お客様は受講者の”マインド”に大きな疑問を感じたようでした。

忘れ去られた受講者の“マインド”

ひょっとしたら、このようなことは企業の中の人材育成の現場で頻繁に起こっているのかもしれません。その背景として、企業の人材育成における変遷が大きく影響していると考えられます。日本企業に本格的に成果主義が導入されて20年近く。多くのビジネスリーダーがプレイングマネージャーとして自分自身の成果を出すことに精一杯になり、部下の面倒を見るための時間をあまりかけなくなりました。その結果、企業内で技術の伝承がなされなくなり、バブル経済が破綻して以降は「終身雇用」や「年功序列賃金」といった日本型雇用施策の転換を余儀なくされ、時間をかけて部下を育成するOJTもおざなりになっていってしまったと考えられます。特に2008年のリーマンショック以降、費用対効果という旗印のもと、「研修の内製化(自社開発)」がトレンドとなり、知識やスキルをいかに効率的に教えることができるか、最小限のリソースでいかに多くの研修を回すか、という“教えること”にかかる工数や手間の効率化に多くの企業が取り組んできたことも事実です。WhatやHowを効率的に伝えることに注力したあまり、Whyが置き去りになってしまいました。ここで忘れ去られてしまったのが、受講者自身の「マインド」ではないかと考えます。

KSAフレームワーク

育成施策を検討するにあたって、何を教えるのか、ということを考える際にインストラクショナルデザイン(研修設計)の世界では一般的なKSAフレームワークという手法を用いることがあります。

K(Knowledge) :知識

S(Skill) :技術、スキル

A(Attitude) :態度、心構え、マインド

車の運転に例えると、Kは車の構造や法規などの知識、Sはハンドルさばきなどの運転技術、Aは安全運転の心がけや危険予測などが相当します。知識(K)もスキル(S)も持ち合わせていたとしても、マインド(A)が欠けていると事故を起こしたりする危険性があります。新入社員を例にとって考えてみましょう。会社の中での不平や不満をお客様先で大声で話し、会社に連絡が来た、ということがあったとします。これはKSAの何が不足している可能性があるのでしょうか?おそらく最も一般的なのは、「社会人としての心構えがまだできてない」などという、Aが不足しているということではないでしょうか。でも、本当にそうでしょうか?もしかすると、「社外での会話は、機密事項も含まれる可能性があるため留意すること」という基本的な内容をきちんと教えていなかったからかもしれません。この場合、不足しているのはAではなくKということになります。

逆の例は、KやSは備わっているがAが不足している、言い換えると、やればできるのに軽視している、やる気が低下している、というような場合です。例えば、報告書の提出期限を守れないXさん。期限までに提出しないといけないことはわかっています(Kはあります)し、報告書作成のスキル(S)がないわけでもありません。この場合、「仕事の段取りができてないから、時間管理の研修に参加してもらおう」ということではなく、「甘い認識」ではダメだということ(A)を、上司からコーチングする必要がある、ということになります。

受講者の「マインド」を設計するとは?

先の管理職研修の例では、マネジメント系の知識(K)やスキル(S)を“効率的に”付与することに注力してしまった結果、管理職としての心構え(A)が疎かになってしまったのではないかと考えることができます。実際にその場にいた訳ではありませんのでここからは想像の域を出ませんが、受講者のマインドに対するカリキュラム設計が不十分だったのかもしれません。もしくは、受講者を送り出す職場の意識が低かったのかもしれません。課長に昇格したということは、会社の中で最も忙しい方たちであることは想像に難くなく、人事部門から指定された必須研修ではあるけれど「この忙しい時に研修なんて・・・」という意識があっても不思議ではありません。ではどうすればいいのでしょうか?研修のカリキュラムとしてKSAのAをどう設計できるか、ということでこの問題は解決できると思います。

受講者のマインドをカリキュラム上設計するとはどういうことでしょう。それは、受講者の態度や意識に変化を起こすような仕掛けを施すことです。例えば、社長からのビデオメッセージなどで昇格者への期待を語っていただくとか、実際に経営幹部に登壇いただき自身が昇格した際の経験談などを交えて対話会をおこなうとか、管理職としての心構えや会社としての期待などを受講者に伝えるやり方が効果的です。また、受講者の上司に手紙を書いていただきカリキュラムの中で確認するという、職場を巻き込むやり方もあります。普段のコミュニケーションではなかなか言えないようなことも手紙には書くことができますので、受講者の研修への参加意欲を向上させるとともに、研修への参加に対して職場の前向きな姿勢を引き出す効果もあります。

組織と社員一人ひとりの成長のために

セレブレインでも人事制度を構築した結果、新しい人事制度に対する理解度を高めるための研修やトレーニングを実施していますが、その研修やトレーニングの中でA(態度、心構え、マインド)を醸成することが最も重要であると考えています。人事制度は経営からのメッセージであり、目指す方向を社員の皆様に正しく理解して頂いて、組織、そして社員一人ひとりの成長にむけて意欲的に取り組んでいくことで価値あるものとなります。そのためには単に知識(K)やスキル(S)を付与するだけではなく、ケーススタディやローププレイなど自分ごととして実感できる(=態度、心構え、マインドを醸成するのに適している)仕組みを取り入れビジネスシーンにおいて効果的に活用できるように導いていくことが大切です。

研修やトレーニングを実施する大きな目的の一つは、社員の行動変容にあります。行動が変わるためには、知識(K)やスキル(S)に注力するだけでは不十分であり、態度や心構え、マインドと言った”意識”から変えていくことが必要です。意識を変え、行動に変化が起こることによって結果を出すことが、社員一人ひとりの成長、ひいてはその組織の発展に繋がっていくことになると考えます。

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