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メンター制度の落とし穴と運用のポイント

 多くの企業では、ゴールデンウィークが明けると、研修を終えた新入社員がそれぞれの配属先で新たに業務をスタートする。彼らにとっては、期待、緊張、不安そして「自分は本当にこの仕事に向いているのだろうか?」と悩む時期でもある。日本生産性本部が実施している新入社員・春の意識調査(2016年度)によると、『これからの社会人生活が不安だ』という回答が52.4%で過去最高という調査結果が出ている。
こうした不安を取り除き、新入社員が早期に組織の一員として戦力となることを支援する施策にメンター制度がある。メンターは新入社員に限らず、さまざまな階層の人材育成場面で活用されているが、近年は新入社員(以下、新人)のサポート役として年齢の近い先輩社員をメンターとして指名し、職場への早期適応を図ることを目的としているケースが一般的で、業務知識や技術の習得以外に早期離職の防止、人間関係構築などの狙いもある。
実際に厚生労働省「ロールモデルの育成およびメンター制度の導入に関するアンケート調査」では、メンター制度の効果として離職率の低下を挙げた企業が47.5%と、その効果が実証されている。

 その一方、メンター制度にはいくつかの落とし穴があることを認識して運用する必要があることを指摘しておきたい。過去のコンサルティングにおいて経験した代表的なケースを三つ紹介する。
一つめは、メンターには業務的、精神的、時間的にかなりの負荷がかかることである。メンター自身にも業務があり、新人を支援するための準備や時間の確保に苦労するだけでなく、メンター自身も成長途上の若手社員であることが多く、人材を育成する責任や難しさの壁にぶつかり適切な指導ができなくなるケースである。
二つめは、メンターとしての意識や姿勢にバラツキが出てることである。そもそもの新人の成長目標が不明確でバラバラの上、コミュニケーションの仕方や指導方法も一貫性がないといったケースである。メンター自身が「何をどこまで指導するべきか?」と迷う一方、新人は「メンターに頼りすぎて迷惑をかけている?」「同期と比較して自分はあまり指導してもらえていない?」などの心配・不満を抱え、本来の目的を達せられないケースである。
三つめは、メンターと新人の相性である。人間同士の間では、ある程度の好き嫌い生じるのはやむを得ないが通常は適切なコミュニケーションで乗り切れる。しかしながら不運にも双方が努力してもどうにも相性が悪いケースがある。そのような相性が悪い状況を放置すると新人の退職につながりかねないケースである。

 上記のメンター制度の運用における落とし穴を放置すると制度自体の実効性に影響がでることになる。そこで、落とし穴を回避し、制度を効果的に運用するためのポイントを以下に示したい。
一つはメンターの役割やタスクの明確化とメンターに必要なスキルのトレーニング機会を提供することである。メンターに最も求められるスキルは、「コミュニケーションスキル」であるが、具体的には、新人と信頼関係を築くスキル、新人が自ら考えて行動することを促すスキル、新人の行動を見守り適切にフィードバックするスキルなどである。
これらのコミュニケーションスキルは、学習し、意識して行動しないと習得できないスキルであるため、事前にトレーニングによって強化しておくことが望ましい。
二つ目は、一人のメンターに任せっきりではなく、上司や職場の他の先輩社員さらに全社的には人事部を含めた情報共有とバックアップ体制を整えておくことである。定期的なミーティング、メンター同士の情報交換の場、一定期間後のメンターのフォローアップ研修、新人へのアンケートなどが考えられる。

 メンターの語源はギリシャ神話に由来すると言われており、「良き指導者」「信頼できる相談者」などの意味を持つ。その役割を若手社員一人の肩に負わせるのは酷である。組織の未来を担う新入社員の育成は組織全体の重要課題と認識し、そのための仕組みを周到に準備し運用することが、実効性のある「メンター制度」のカギと言える。

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