ワインで対談 2017年8月21日 なぜ日本のHRテックは米国から10年遅れたのか – HRテクノロジーコンソーシアム香川憲昭さん × セレブレイン高城幸司 セレブレインのコンサルタントとゲストが、ワインと料理を楽しみながら人事について本音で語り合う対談企画。第一回ゲストは、HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)副代表理事ファウンダーであり、株式会社ジンズ、株式会社Gunosyを経て、2017年9月より株式会社ペイロールの取締役に就任された香川憲昭さん。HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)の成り立ちや、日本におけるHRテクノロジー事業の課題と展望についてお話を伺いました。聞き手は、セレブレイン代表取締役社長・高城幸司が務めます。 第1回ゲスト:香川憲昭さん略歴 1994年京都大学法学部卒業後、KDDI入社。事業開発本部を経験後、2001年に株式会社ドリームインキュベータに入社しベンチャー支援に携わる。2007年、株式会社ジンズへ転職。店舗オペレーション、人事責任者として人材育成、教育体系の構築などを手がけつつHRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)を立ち上げる。その後、株式会社Gunosyを経て、2017年1月に株式会社ハイグロース・カンパニーを設立し、デジタルマーケティング事業とHRテクノロジー事業を拡大すべく奔走している。 ※2017年9月より株式会社ペイロールの取締役 営業本部 本部長に就任 HRテクノロジーコンソーシアムは小規模な勉強会から始まった 高城:香川さん、セレブレインのグループ会社・セレブールが経営するワインレストラン「あじる亭カリフォルニア」へようこそ。今夜はカリフォルニアのワインと料理を召し上がっていただきながら、HRテックについてざっくばらんにお話できたらと思っています。 香川:嬉しいですね! どんなワインとお料理がいただけるのか楽しみです。 高城:まずは香川さんがHRテクノロジーコンソーシアム(※)を立ち上げた経緯を教えていただけますか? (※)人事・教育分野におけるテクノロジー活用やデータの分析結果を経営に活かすことを推進する団体。2015年4月に正式発足。正式名称「人事・教育テクノロジー&ビッグデータ分析コンソーシアム」、通称「HRテクノロジーコンソーシアム」。 香川:原点になったのは2012年。前職となる株式会社ジンズで初めて人事としてのキャリアをスタートしたときのことです。経営視点から見てハイレベルな人事組織領域の取り組みを、国内外を問わずリサーチする目的で勉強会を立ち上げることにしたのです。そのときちょうどご縁がありまして、慶応ビジネススクールの岩本先生にご協力をいただけることになったのです。 高城:最初は勉強会という形でのスタートだったのですね。すると、それほど大規模ではなかった? 香川:小規模なところからのスタートでした。それが、回を重ねるたびに集まっていただける人の数が増えてきまして、2014年あたりからHRテクノロジーコンソーシアムとしての活動が本格化してきました。 高城:香川さんがジンズ時代に推し進めておられたHRテックの取り組みに、私たちセレブレインとしても関わらせていただきましたよね。 香川:ええ。すごく大きな気づきをいただいたのが、まさにセレブレインさんとの取り組みでした。クラウドサービスを活用した360度フィードバックもスムーズに導入できましたし、あそこが私にとってのHRテックの原点だったといえると思いますね。 ビッグデータセミナーが大きな転換点に 高城:ではお話を少し中断して、最初のお料理をいただきましょう。あじる亭カリフォルニアで大人気の「カカオニブとキヌアのサラダ」と白ワインからどうぞ。 香川:おっ、これはおいしいですね……。ワインも何だか不思議な色合いですね。 高城:最近はやりのオレンジワインという白ぶどうを赤ワインの製法で作ったワインです。 香川:いいですねえ。 高城:ちなみに香川さんはどんな料理がお好きですか? 香川:最近は釣りに夢中になっていて、食材としても魚が大好物になってきましたね。土日は海に出ていることも多いですよ。今週末もアカハタを狙いにいきます。 高城:いいですね! このオレンジワインはコクがあるので、魚料理にも合うと思いますよ。 さて、HRテクノロジーコンソーシアムのお話に戻りましょう。5年たって、今は比較的HRテックという言葉が世間で話題になってきたと思います。ただ、そうはいっても、まだまだ進んでいないという感覚もあります。HRテクノロジーコンソーシアムの立ち上げ後は、どのような活動をされてこられたのでしょう。 香川:最初の1年くらいは、私がジンズという成長企業に勤めていたこともあって、短期間で急激に成長する企業に特有の人事・組織上の課題やその解決方法をピックアップしたケースを取り上げていました。その翌年あたりから、ビッグデータをビジネスに活用しようというトレンドに着目し、人事データを分析・活用した経営課題の改善提案をテーマにセミナーを開催したのです。それが大きな転換点になりました。 高城:そのセミナーはいつ頃? 香川:2014年くらいですね。それまでの勉強会は20名か30名くらいの規模だったのですが、HR領域におけるビッグデータの活用をテーマにした途端、参加希望者が80名くらいに跳ね上がったのです。 高城:それはすごい! たしかにビッグデータはホットなキーワードでしたね。 香川:これはただごとではないなと(笑)。HRテックのポテンシャルの大きさを肌で感じました。しかも、これはご協力いただいている企業の社長さんに聞いたのですが、今はその頃からくらべても集客力が上がっていて、この1年だけでも参加者が2.5倍くらいになっているそうなんですよ。たしかにHRテクノロジーコンソーシアムとして主催・協力するセミナーの実施回数自体もかなり増えています。 高城:加速度的に注目度が上がってきている印象ですね。注目されているといえば、行政との連携も進んでいますよね。経済産業省主催でHRテックをテーマにしたビジネスプランコンテストなども開催されていて、起業を盛り上げようという機運が高まっています。そうやって行政が応援してくれることについてはどう感じていますか? 香川:時代の流れとうまく寄り添ってきたと思いますね。日本は経済成長の面では踊り場に差し掛かっていて、その中でどうブレイクスルーして次の成長につなげるかということを経済産業省は考えていらっしゃって、そのキーワードになっているのが”生産性の向上”になります。 高城:IoTやAI活用、働き方改革などが叫ばれていますね。HRテックもその一つですね。 香川:そうなんです。ただ、日本では人事組織領域では、テクノロジーはこれまでまったく活用されてこなかったんですね。一方でアメリカに目を向けてみると、10年くらい先を行っているわけです。このままじゃまずいということで、経済産業省も日本におけるHRテックの遅れを大きな課題として捉えておられ、働き方改革の推進ドライバーとして位置づけられています。 高城:だからこそHRテクノロジーコンソーシアムの活動を支援してくれているということですか。 香川:そういうことだと思いますね。 HRテック活用で日本はアメリカよりも10年遅れている? 高城:続いてのお料理はアメリカでは不動の人気料理「ナチョス」です。ピノ・ノワールで作られた赤ワインと一緒にどうぞ。 香川:うわっ、スパイシーですね! これもおいしいです。ワインが飲みたくなる味ですね(笑)。 高城:ピノ・ノワールというと繊細なイメージがあるかもしれませんが、カリフォルニアのピノ・ノワールは濃くてしっかりしたものも多く、こういう刺激的な料理にもマッチしてくれるんですよ。 香川:うーん、たしかによく合いますね! 高城:アメリカつながりで話を戻しますが、どうしてHRテクノロジーの分野は日本とアメリカでそんなに差がついたのでしょう。 香川:いろいろな要素がありますが、日本人特有の人間関係の作り方として、本音と建前がありますよね。上司の愚痴は居酒屋で言うみたいな(笑)。アメリカだとそうではなくて、その場で率直に意見をぶつけ合う文化なんです。結果的に解決するか衝突するかという二択になって、離職率も日本とは桁違いに大きくなります。 高城:そうした雇用の流動性の高さがHRテックの発展を促したということですね。先ほど、日本におけるHRテックの導入のレベルはアメリカより10年遅れているというお話がありましたが、具体的にはどういうところにそれが表れていますか? 香川:たとえば人事システムの根幹を担うものとして評価制度がありますよね。私が入社したばかりのジンズでは、評価が半年から1年のスパンで行われていました。半年で中間評価を出して、1年後に通年の評価を出すわけです。おそらくこれは、日本の企業では比較的多いサイクルだと思います。 高城:そうですね。我々としても人事施策は数多くのお手伝いをさせていただいていますが、やはり半期で評価されている企業が多いですね。 香川:ところが、アメリカだとHRテックを活用して四半期に1回、昨今は月次評価やリアルタイムで評価をするトレンドが広がってきています。ジンズでもセレブレインさんとの取り組みでクラウド型のタレントマネジメントを活用し、集計業務を効率化して四半期に1回の評価を取り入れました。 高城:テクノロジーをうまく活用することで、業務負荷を低減しつつ、新たな仕組みを導入することができるようになったと言うことでしょうか? 香川:そうなんです。私は今、デジタルマーケティングの事業領域にも関わっているのですが、とにかく消費者のスピードが速い。デジタルネイティブ世代は特にそうなんですが、興味関心がすぐ分散してしまうので、瞬間的にココロをとらえていかないといけないのです。 高城:ビジネスのスピードが加速している今、人事領域も変化にあわせてスピードアップしていかなければいけませんね。 香川:人事担当者のあり方も日本とアメリカでは違うんです。人事は専門性が高い仕事なので、日本ではどうしても人事畑でやってこられた方がずっと担当されることが多いです。アメリカも、人事はもちろんプロフェッショナル職ではあるのですが、それ以外にも事業のことをしっかり理解している人が責任者になっていくんですね。日本でも最近になってようやく、経営人事とか戦略人事が大切だと言われるようになりましたが、まだまだだと思います。 マッチングから採用後までサポートするサービスに期待 高城:最後にメインディッシュとして炭火で焼いた「フィレ肉のステーキ」と赤ワインはシラーをあわせましょう。 香川:肉がやわらかいですね! うまみがすごいです。これは贅沢ですね! 高城:あじる亭カリフォルニアに来たら、やはり肉は欠かせません(笑)。 香川:この赤ワイン、辛口でいながら甘い香りもあってステーキにぴったりですね。 高城:カリフォルニアはピノ・ノワールもいいけれど、こういう甘い香りがやっぱり特徴的ですよね。 香川:何だか楽しくなる組み合わせですね。 高城:さて、お話を続けましょう。今後、日本企業はどのようにHRテックを活用していくべきだと考えていますか? 香川:大上段にこうあるべきだと申し上げる立場にはないのですが、HRテックを活用することで、非生産的な業務の解決などを考えてほしいと思いますね。たとえば残業は非生産的で、人生の時間の浪費です。テクノロジーによってそれを可視化することに意味があると思います。 高城:HRテクノロジーコンソーシアムとして、あるいは香川さん個人として、注目していることはありますか? 香川:マッチング技術ですね。これまでは転職するとなると、転職会社のエージェントが持ってくるおすすめ企業3社から選ぶみたいな世界だったわけですが、HRテックの力で思ってもみないところから選択肢が降ってわいてくる。そうなると、知見や経験がもっと付加価値として評価されるようになって、ある一定以上の年齢だと転職しにくいという常識が崩れてくるんじゃないかと思います。 高城:香川さんとして今後取り組んでいきたいテーマは? 香川:いろいろな切り口がありますが、コストをマイナスからイーブンに戻すサービスはわかりやすいので立ち上がるのが早いと思うんです。たとえば退職率を減らすとか、採用コストを低減するとか、面接時間を短縮するとかですね。 高城:たしかに、わかりやすいところから盛り上がっていくでしょうね。 香川:ただ、本当のグロースはその先にあると考えています。今までにない切り口、たとえば採用した後に人材が活躍できるようサポートするサービスなんかはアメリカだと普通にありますが、日本ではまだ聞いたことがありません。採用のマッチング精度を高めつつ、採用後の活躍まで一気通貫でサポートするサービスが立ち上がってくることを期待したいし、私としても注目していきたいと思っています。 高城:興味深いお話、ありがとうございました。ちょうどワインもなくなりましたね。 香川:ワインもお料理も本当においしかったです。ありがとうございました。 高城:こちらこそ、ありがとうございました! 今回のお店 あじる亭カリフォルニア 赤坂・赤坂見附からすぐのアメリカワインと炭火焼きのダイニング。カジュアルなワインから希少性の高いカルトワインまで200種類以上の品揃え。ソムリエ資格をもつシェフがカリフォルニアキュイジーヌとワインを絶妙にマリアージュし、腕を振るっています。 <本日のワインと料理を紹介!> 【一皿目】 ・料理:カカオニブとキヌアのサラダ ダンデライオン・チョコレートとのコラボフェアで誕生した一皿は、カカオニブとキアヌ、二つのスーパーフードを使った夏野菜たっぷりのサラダ。シャキシャキした野菜の食感に、カカオニブとキアヌがアクセントを加えています。 ・ワイン:スコリウム・プロジェクト ザ・プリンス・イン・ヒズ・ケイヴス ファリーナ・ヴィンヤーズ カリフォルニア カリフォルニアに新たな潮流をもたらすニューカリフォルニアの作り手たち。その一人、エイブ・ショーナーが生み出すソーヴィニヨン・ブラン100%のオレンジワイン。柑橘系の爽やかな香りの奥に桃のような甘い香りがわずかに加わって、多層的な芳しい香りが夢心地を誘います。余韻に残るほのかな苦味が、サラダに使われた野菜の苦味に寄り添い見事なマリアージュを演出してくれます。 【二皿目】 ・料理:ナチョス カリフォルニアで大人気の一皿。スパイシーなひき肉、ワカモレ、ピリッと辛めのチョリソーなどのトッピングをトルティーヤ・チップスにのせていただきます。濃厚でボリュームもたっぷり! スパイスとワインが食欲を刺激してくれるので、どんどん食べ進めてしまいます。 ・ワイン:アルタ・マリア・サンタ・マリア・ピノ・ノワール2012 栽培家ジェイムス・オンティヴェロスと、ワインメーカー ポール・ウィルキンズが手がけるピノ・ノワール100%の赤ワイン。繊細なイメージがあるピノ・ノワールですが、アメリカのいわゆる”カリピノ”はエレガントでありながらもしっかりとした味わい。独特のスパイシーさがナチョスの濃厚な味わいに溶け込んでお互いを引き立てます。 【三皿目】 ・料理:フィレ肉のステーキ チャコールグリルという炭火を使ってやわらかくジューシーに焼き上げたフィレ肉のステーキ。すっとナイフが入るほどやわらかいのに、肉厚で食べごたえがあり、かみしめると旨味が口いっぱいに広がります。 ・ワイン:ピエドラサッシ ピーエス シラー サンタバーバラ 二組の夫婦がオーナーとしてワイン作りを手がける小さなワイナリー、ピエドラサッシ。シラー100%で作られたピーエス シラーは、しっとりと力強く、それでいてまろやか。アメリカらしいぶどうの甘さが感じられる濃厚な味わいです。 編集後記 ライター・カメラマンの山田井です。HRテックの伝道師ともいえる香川さんは、まさに対談第一回目にふさわしいゲスト! 日本におけるHRテックの歩みをわかりやすくお話いただきました。 そんな対談に合わせるのは、HRテックの本場であるアメリカの風を感じるカリフォルニアワインと料理の数々。個人的に驚いたのはカカオニブとキヌアのサラダとオレンジワインの組み合わせで、思わず「そうきたか!」とうなってしまうすばらしいマリアージュでした。こういう出会いがあるからワインはやめられません! ナチョスとステーキはアメリカらしいパンチのきいたスパイシーな味わいで、辛口ながらもぶどうの果実味たっぷりの”カリピノ”とシラーが言うまでもなくマッチ! こちらは合わせる前から「こんなのもう絶対おいしいに決まってる!」と期待を膨らませていて、実際に相性抜群でした。次はカベルネ・ソーヴィニヨンも試してみたいですね。 どのワインと料理も、この夏何回でも食べたいすばらしいペアリングでした!
コラム 2017年6月20日 戦略的採用が企業の命運を左右する―その2 適時に適所の適材を確保する戦略的サーチ型の採用が企業の生き残り競争にとって不可欠であることは、前回のコラムで述べた。今回は、適材の採用が必ずしも日々変化する事業戦略と直結しない形で進んでいる企業も多い点について考えてみたい。例えば人事部門による新卒やキャリアの定期採用がそれにあたる。通常応募の母集団を形成し、能力や適性を定型的なテストや面接で判断するプロセスを経て内定から入社に至る。このような採用フローの場合、近い将来、人事部門のスタッフの代わりにAIなどのHRテックを活用することで、採用プロセスの適正化、簡略化、迅速化、省力化が図られていくと思われる。 その一方、会社の経営戦略上重要な新規事業を経営陣が決断したケースを考えてみたい。もちろん、大手企業であれば社内に隠れた適材が存在する可能性もあり、適材候補を外部に派遣したりトレーニングなどで対応させる方法もある。しかし問題は時間である。現代のスピード社会では、数ケ月の遅れが事業の立ち上げに致命的なロスとなる可能性がある。大手企業でも難しい新規の市場、事業、技術などの領域における適材の確保は、中堅企業の場合、なおさら早い段階で外部に目を向け、経営方針と採用を一体化させた戦略的な採用を実践することが現実的で効果的である。 当社がコンサルティングを担当した戦略的採用の一例を紹介する。BtoCの企業A社の経営陣が新たにFintech事業を推進することを検討していたが、消費財を中心とした事業形態ということもあり、金融、ITに経験や知見のある人材が社内に少なかった。戦略コンサルティング会社にコンタクトしたが、提案の内容がA社の思惑と異なっていたため、自社内で事業ノウハウを集約させ内政化することになった。そこでFintech事業の早期立ち上げに中心的な役割が期待できる外部の人材を招へいする案件について相談を受けた。サーチコンサルティングのプロセスとして、会社全体の事業の方向性とFintech事業の位置づけ、組織体制、人材の状況、将来の事業ビジョンなどについて、経営トップ以下幹部層にも詳細なヒアリングを実施した。さらに、人材マーケットの現状に加えFintech関連業界や職種に関する情報と知見を提供し、A社にとって最適と思われる人材像を共有した上で、サーチを開始することになった。 このような戦略的採用のプロセスでは、直接経営トップや事業部門トップと連携し、迅速な意思決定で入社に至るケースが多い。ただし、入社後に人材が活躍できる環境づくりの面では、通常の定期採用をしている人事との協力体制が不可欠である。もちろん企業の経営と事業に直結する視点で戦略的なピンポイント採用するプロセスは、AIなどのHRテックでは置き換えることが困難で、人事部門の存在価値につながる。人事部門の全面的サポートにより戦略的に採用した人材が活躍してこそ、事業競争に生き残ることができる。 最後に、サーチコンサルタントとして重要視しているのは、経営トップとのケミストリーなど、表面的に見えにくいポイントである。人材が入社後、経営陣とシナジー効果を発揮できるかどうかを検証し、アドバイスすることがコンサルタントにとって欠かせない価値の提供である。また時間と労力とお金を費やした戦略的採用人材は、入社がゴールではなく、あくまでスタートであり、その後の定着、活躍に至るまで、コンサルタントが一定のフォローを行うことで事業の実効性を高めることにつながると言える。
コラム 2017年5月15日 鈴木 香絵 戦略的人材マネジメントを考える 多くの企業では、製品開発、製造、販売、流通などあらゆる事業領域のグローバル化に加え、AI、IOT、VRなどテクノロジーの進化に伴うビジネスモデルの変革が進む中、企業の内外に適応可能な人材の絶対数が不足している状況にあります。一方、働き方改革における雇用・労働関連法の見直し、有効求人倍率が高まる状況下の就職や転職への意識の変化など、企業の人材マネジメントに立ちはだかる課題は多様化かつ複雑化しています。 今回は、ますます多様化、複雑化するビジネス環境の中で、企業は人材マネジメントについてどのような方針や施策で対応すべきなのかというテーマで考えてみます。 人材マネジメントにおける最初の課題に人材の採用があります。一般的に、大手有名企業は、思い通りに優秀な人材の採用ができているように思えますが、必ずしもそうとはいえないケースも多く、あまり名を知られていない中小企業の中に毎年優秀な人材を採用できているという事実を認識する必要があります。 一方、採用した後の状況に目を移してみると、名の通った企業でありながら離職率の高い企業がある一方で、知名度と待遇が高いとは言えない企業に優秀な人材が定着しているケースもあります。つまりこれらのケースの中に人材マネジメントのヒントがあるのです。 戦略的人材マネジメントは、企業の成長や進化、時に変革を促す適材と適所の在り方を効果的にマネジメントするために不可欠な施策です。しかしながら企業によっては、事業計画に即した人材マネジメントが不十分で、ビジネスの波をとらえきれず成長機会を逃すケースが多く見受けられるのです。 多くの企業では新卒や中途採用などの「リクルーティング」活動を実施しています。自社の将来に必要な能力や資質を持った候補者を様々な手段で募集し、一定のプロセスにより選考を行い。一定枠の人数を採用する活動で、候補者の「募集力」が重要であり、知名度や資金力のある大手企業に有利な汎用的採用活動と言えます。 一方、企業が事業計画を推進する上で、強化が必要とされるミッション、職種、ポジション、期待される成果などを明確にして人材を選抜する採用は、ターゲットセレクションとも呼ばれる「ハイヤリング」活動であり、「採用決定力」が重要で、採用に対する柔軟性、迅速性、一体性がある中堅企業やオーナー企業にとって、有利な点がある戦略的採用活動です。 「リクルーティング」と「ハイヤリング」を明確に認識して採用活動を行っている企業は、まだまだ多数とは言えません。例えば、戦略的採用で実績を上げているある企業では、人事担当者だけではなく、経営者や幹部クラスも社外の人材情報にアンテナを張り、優秀な人材の情報があれば、自ら出向いて、自社の事業やビジョンをアピールし、勧誘することもあります。仮に、その時点で入社に至らなくても、次期有望人材として継続的にコミュニケーションが可能な状態をつくっています。 戦略的な「ハイヤリング」活動を実践するには、業界や候補者の動向に対する知見、サーチと面談のスキル、活動のための時間などが必要であり、一朝一夕に実現できない企業が多いのはやむを得ないと思います。そのような場合、私たち人材サーチコンサルタントとの連携により実効性のある「ハイヤリング」を検討いただくことがあります。 サーチコンサルタントは、企業の特性や事業計画における不可欠な人材のニーズを把握し、一定期間の間に適任と思われる候補者をピンポイントでサーチしてリスト化します。リストする候補者は、人材会社等に転職登録されていない現職人材が多く、候補者が転職の意志を固めるまで企業の経営幹部とのカジュアルなミーティング機会をもつなど慎重にコミュニケーションをとる過程が重要となります。したがって採用に至るまで長期間を要する場合もありますが、重要なポジションほどミスマッチが許されないので、入社後に「知らなかった」という事態にならないためにも十分な情報共有の時間を持つことは必然と言えます。 戦略的「ハイヤリング」では、採用のプロセスも重要ですが入社後のオープンな受け入れ環境づくりも欠かせません。人材マネジメントにおける採用や定着の課題は、人事部門だけでなく、経営者、組織の責任者をはじめ企業全体の重要なミッションという風土を醸成することで、レベルアップさせることが可能なのです。
コラム 2017年5月11日 メンター制度の落とし穴と運用のポイント 多くの企業では、ゴールデンウィークが明けると、研修を終えた新入社員がそれぞれの配属先で新たに業務をスタートする。彼らにとっては、期待、緊張、不安そして「自分は本当にこの仕事に向いているのだろうか?」と悩む時期でもある。日本生産性本部が実施している新入社員・春の意識調査(2016年度)によると、『これからの社会人生活が不安だ』という回答が52.4%で過去最高という調査結果が出ている。 こうした不安を取り除き、新入社員が早期に組織の一員として戦力となることを支援する施策にメンター制度がある。メンターは新入社員に限らず、さまざまな階層の人材育成場面で活用されているが、近年は新入社員(以下、新人)のサポート役として年齢の近い先輩社員をメンターとして指名し、職場への早期適応を図ることを目的としているケースが一般的で、業務知識や技術の習得以外に早期離職の防止、人間関係構築などの狙いもある。 実際に厚生労働省「ロールモデルの育成およびメンター制度の導入に関するアンケート調査」では、メンター制度の効果として離職率の低下を挙げた企業が47.5%と、その効果が実証されている。 その一方、メンター制度にはいくつかの落とし穴があることを認識して運用する必要があることを指摘しておきたい。過去のコンサルティングにおいて経験した代表的なケースを三つ紹介する。 一つめは、メンターには業務的、精神的、時間的にかなりの負荷がかかることである。メンター自身にも業務があり、新人を支援するための準備や時間の確保に苦労するだけでなく、メンター自身も成長途上の若手社員であることが多く、人材を育成する責任や難しさの壁にぶつかり適切な指導ができなくなるケースである。 二つめは、メンターとしての意識や姿勢にバラツキが出てることである。そもそもの新人の成長目標が不明確でバラバラの上、コミュニケーションの仕方や指導方法も一貫性がないといったケースである。メンター自身が「何をどこまで指導するべきか?」と迷う一方、新人は「メンターに頼りすぎて迷惑をかけている?」「同期と比較して自分はあまり指導してもらえていない?」などの心配・不満を抱え、本来の目的を達せられないケースである。 三つめは、メンターと新人の相性である。人間同士の間では、ある程度の好き嫌い生じるのはやむを得ないが通常は適切なコミュニケーションで乗り切れる。しかしながら不運にも双方が努力してもどうにも相性が悪いケースがある。そのような相性が悪い状況を放置すると新人の退職につながりかねないケースである。 上記のメンター制度の運用における落とし穴を放置すると制度自体の実効性に影響がでることになる。そこで、落とし穴を回避し、制度を効果的に運用するためのポイントを以下に示したい。 一つはメンターの役割やタスクの明確化とメンターに必要なスキルのトレーニング機会を提供することである。メンターに最も求められるスキルは、「コミュニケーションスキル」であるが、具体的には、新人と信頼関係を築くスキル、新人が自ら考えて行動することを促すスキル、新人の行動を見守り適切にフィードバックするスキルなどである。 これらのコミュニケーションスキルは、学習し、意識して行動しないと習得できないスキルであるため、事前にトレーニングによって強化しておくことが望ましい。 二つ目は、一人のメンターに任せっきりではなく、上司や職場の他の先輩社員さらに全社的には人事部を含めた情報共有とバックアップ体制を整えておくことである。定期的なミーティング、メンター同士の情報交換の場、一定期間後のメンターのフォローアップ研修、新人へのアンケートなどが考えられる。 メンターの語源はギリシャ神話に由来すると言われており、「良き指導者」「信頼できる相談者」などの意味を持つ。その役割を若手社員一人の肩に負わせるのは酷である。組織の未来を担う新入社員の育成は組織全体の重要課題と認識し、そのための仕組みを周到に準備し運用することが、実効性のある「メンター制度」のカギと言える。
コラム 2017年4月26日 関 将宏 働き方改革にはQOWとQOLの向上がカギ 自身の話になるが、子どもが産まれたことをきっかけに、働き方が変わった。その理由は、「凄い速さで成長する我が子の成長を見たい」、「多少でも家事や育児に参加して妻の負担を減らしたい」と思ったことにある。帰宅してやるべきことがあると、おのずと仕事への取り組み方も変わってくる。「今日中に終える仕事の優先順位は?」、「いかに短時間で良いアウトプットを出すか?」、「他のメンバーとの連携は?」など限られた時間の中で最大のパフォーマンスを出すための工夫をしながら仕事を進めるようになり、言うなればQOW(Quality Of Work:仕事の質)が変わった。 働き方といえば、内閣の諮問機関である「働き方改革実現会議」において、残業の上限を月間平均60時間に抑える案や同一労働同一賃金の在り方について議論がなされ、長時間労働の削減に向けた法制化などの取り組みが本格化している。一部企業の中には、従来のノー残業デイに加え、一定時刻に社内の照明やパソコンをシャットダウンするところもあり、その影響は広がっているように見える。しかしながら表面的な「労働時間短縮」や「同一労働同一賃金」は、企業にとってリスクになる可能性も指摘したい。 企業サイドから見た場合、単なる労働時間短縮は、生産性の低下やコスト増をきたす可能性があり、減益の影響は結局社員の処遇低下につながらないか? また「同一労働同一賃金」という言葉には表れない仕事の範囲や責任の重さ、転勤の有無、同一時間内に生み出される成果の量や質の格差に対してどのように対応するのか? これらへの対策を誤ると、頑張って貢献している社員のモチベーション低下を招きかねない。 最近、人事戦略コンサルティングにおいて働き方改革に関連するものが増加傾向にある。例えば長時間労働削減を進める中で、仕事の優先度や緊急度を認識し、無駄を排除してより効率的に時間を活用するための「効果的なタイムマネジメント」や「同一労働同一賃金」を前提としながら納得感のある評価基準に基づく合理的処遇格差の在り方などである。 一方、社員のサイドから見た場合、長時間残業が規制され、これまでは会社に居残って仕事をしているのが残業手当もついて一番楽だと考えていた人にとっては、どうしていいかわからず街をさまよってしまうという「残業難民」状態に陥るらしい。家に居場所がなく、小遣いも減って遊ぶこともできない「残業難民」をターゲットに夜間にアルコールを提供するコーヒーショップや格安の立ち飲み居酒屋が増えているとのことである。 要は「早く退社してこれがしたい」という何かがあれば、残業を抑制するモチベーションにつながるとも言える。ある会社が行った退社後の行動についてのアンケートによれば、25~34歳未婚層の上位は「Webサイトを閲覧する(53.1%)」「テレビを見る(52.5%)」「SNSをチェック/書き込む(31.9%)」といった時間消費型の活動となっていたが、残念ながら時間消費型の活動は残業を切り上げるモチベーションにはなりにくい。一方で「運動やスポーツをする(17.5%)」「資格や習い事、語学などの勉強をする(15.0%)」といった自己投資型の活動を行っている人の回答数が少なめだったのはやや残念な結果と言える。 30代前半の自身の周りの友人の間では、資格取得をめざす人が増えている。簿記やファイナンシャルプランナーなど仕事に活かせる資格を目指す人や色彩コーディネーターやワインエキスパートなど趣味の資格を勉強する人もいる。彼らは異口同音に「大人になってからの勉強は楽しい」と語っており、まさにQOL(Quality Of Life : 生活の質)を上げている。 一億総活躍社会や働き方改革といった耳触りの良い掛け声をだけでは何も生まれない。その当事者である企業は、それらの影響によってもたらされるリスクへの対応に万全を期す必要があり、個々の社員はQOW(Quality Of Work:仕事の質)とQOL(Quality Of Life:生活の質)両面の向上を図ることが求められることになる。 ※引用 日経ビジネスONLINE 「残業が減らないのは家に帰りたくないから」 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278202/071500043/?P=4&rt=nocnt 株式会社パートナーエージェント 「若手社会人の”アフター5″は?」 http://www.p-a.jp/research/report_35.html
コラム 2017年4月21日 幸前 夛加史 ビジネスと組織と人の感性(最近の大手航空会社のニュースから) オーバーブッキングのために乗客を引きずり下ろした大手航空会社のニュースが大きく取り上げられています。一度批判の的になってしまうと、あらゆる事柄が会社の体質の裏付けのように報じられ、SNS上でも、「If we can’t seat you, we will beat you(シートがご用意できない場合は、代わりに打撃を差し上げます)」といったごろ合わせキャッチフレーズやヘルメットをかぶって搭乗した写真が投稿されるなどのネガティブキャンペーンに見舞われ、大きな企業リスクになってしまいます。 この「事件」には様々な要因があると言われていますが、航空会社間の競争が過熱状態にある中、オーバーブッキングの調整難易度が高まっていることも背景にあったようです。 また乗客が搭乗する前に解決できなかったことについては、搭乗案内までのプロセスに何らかのミスがあった可能性を指摘する声もありました。 しかしながら、人事・組織的な視点で考えてみると、現場の個々の社員の中でビジネスの本質に対する感性が鈍くなっていたという感想を持たざるを得ません。目の前で起きていることを誰も「重大な事件」と認識せず、ルールに従って行動しただけと考えていたことがそれを裏付けています。 多くの会社と同様、この航空会社もHP上にミッション・バリューを掲げています。そこには「信頼性」「ホスピタリティ」「顧客第一主義」など、会社の価値観を表す言葉が明記されています。 しかしこの「事件」の現場の社員はバリューと逆の行動を実践したことになります。一部には疑問を持った社員がいた可能性はありますが、行動に移すまでには至らなかったのでしょう。 スカイトラックス社によるエアライン顧客満足度ランキングによれば、この航空会社は、最近5年間だけでも50位以下と低迷していることを考えると、これは突発的に起きてしまった不幸な「事件」ではなく、組織と現場の感性が常態的に鈍い状況にあったからこそ起きたといえます。 本社サイドはミッション・バリューをどのように現場へ浸透させていたのか、現場は本社からの指示やマニュアルに盲従していただけなのか、現場のマネジャーはマニュアル通りに事を運べば責任を全うできると考えていなかったかなどなど・・。もとより航空会社は安全が第一であり、ルールやマニュアルは確かに重要であるが、この「事件」の根底には、ビジネスと組織と人を結びつける感性の鈍化が感じられてなりません。 ビジネスと組織と人を結びつける感性で重要になるのは、「会社の理念」と「現場組織のプロセス」と「人の判断」の一体性です。今回の「事件」は、この一体性に大きなギャップが生じていたということです。 適正なビジネスの推進は、現場組織で行動する人の感性をどのように育成強化するかにかかっています。その中身を分解すると、まず会社がビジネスを推進するためのビジョン・ミッション・バリュー、期待する社員像、目標としてのKPIなどを人事的な仕組みとして明確にすること、さらにそれをリードし補完するトップのメッセージ、現場のマネジメントスタイル、オープンなコミュニケーションなどの社風を醸成することが重要になります。 この航空会社の問題は、他山の石ではありません。どの企業にも事件や問題が起きるリスクがあります。そのような場合こそ、チャンスととらえ、しっかり事件や問題の背景や本質を見極め、適切な改善策や対策をとることです。失敗を繰り返す企業は、問題の本質から目をそむけ、上辺だけの対応でお茶を濁している可能性が高いのです。前述した人の感性を育成強化する仕組みやプロセスにも着目し、問題の本質を解明するところから始めたいものです。
コラム 2017年4月18日 戦略的採用が企業の命運を左右する―その1 人材の採用には成功パターンがないと言われている。しかしながら会社の将来にとって中核を担う人材を採用するには、従来型のパターンでは難しいのが現状である。今や採用には戦略的なアプローチが不可欠であり、その結果次第では企業の命運を左右すると言っても過言ではない。 厚生労働省が2017年1月に発表した2016年平均の有効求人倍率は前年比0.16ポイント上昇の1.36倍で、1991年の1.40倍以来25年ぶりの高水準を記録した。企業の求人数が増加する半面、有効求職者は減少している。一方雇用の先行指標とされる新規求人倍率の16年平均も2.04倍と0.24ポイント上昇し、91年以来の高水準となった。さらに併せて発表した16年12月の有効求人倍率は1.43倍で4カ月連続の上昇である。しかし、実際に企業のコアとなる人材の採用対象は、このような数字上の求職者には表れない第一線でバリバリ活躍している現職の人材なのである。 景気の良い時にはさらに成長を加速させる人材、悪い時には改革を主導し、事業を守り抜く人材など、企業は戦略的に採用したい人材のニーズは常にある。例えば、次世代経営者候補、即戦力の先端技術エンジニア、新規事業責任者などである。このような人材は、インバウンド型の待ちの採用はほとんど通用しない。例えば、新規事業責任者の募集を出しても、転職市場から自ら人材登録したり転職活動している人材が数多く応募し、書類選考や面接だけで労力を費やし、実際に採用できるケースは稀有な状況となる。 では、本当に必要な人材をピンポイントで的確に採用したい場合にはどのような方法が考えられるのか? 一つは、経営幹部自らが周辺の知り合いに声をかけて、紹介を受けるケースである。経営者は会社の事業や将来ビジョンを候補者に直接訴え、口説くことができ、さらに経営者としての人間性をアピールできれば、相性の問題もクリアでき、採用に至る確率が高いのである。一方、経営者自らが直接採用に関わった人材のケースは、後々社内的に微妙な立場となりやすいことが指摘されていることからあえて回避する企業もある。そのような場合、効果的なのがサーチ型による戦略的採用である。 市場価値の高いコア人材を採用するには、まず経営者や人事部門責任者が採用に対する固定観念を脱し、会社の事業戦略実現に向けた重要な人材採用戦略と位置づけることである。サーチに精通したコンサルタントと事業の方向性と必要な人材像を明確に定義し、候補者のキャリアビジョンとの整合性をはかるコミュニケーションプロセスが重要であることを認識することが大切である。 サーチ型採用の場合、登録型紹介採用とは、候補者の対象が全く異なる。前述の有効求職者に出現しない現役バリバリの方々を対象にリスト化するケースが多いからである。戦略的採用は、企業の経営層とサーチコンサルタントとの協働作業による周到なプロセスときめの細かいコミュニケーションが成功に導く鍵となる。
コラム 2017年4月10日 「生き残る」ための時代が求める評価基準 米国のトランプ政権発足から、世の中の動きが激しくなる予感を示唆するような論調がマスコミを賑わすようになってきました。確かに、その兆候は日本にも見られます。過去のスタンスではありえなかった安倍政権の韓国に対する強気な姿勢。あるいは民間企業の世界に目を移すと、倒産件数に占める業歴30年以上の老舗企業の割合が急増。「昔ながらの商品構成や経営が時代にマッチせず行き詰まったケースが目立つ」という(東京商工リサーチ調べ)。会社を大きく変える覚悟を経営者はもたなくてはならない時代がやってきたといえるのではないでしょうか。会社を変えるタイミングとされるのが経営トップの交代です。交代して着任する経営トップは「新しいことをやりたい」と思うもの。それが「××カラー」と呼ばれたりします。そうやって新たなカラーを打ち出そうとすると、起きるのが過去の方針の見直しであり、生じるのが過去を否定することをよしとする雰囲気です。というのも、今までと同じやり方を踏襲してうまくいったとしても、「あの人は新しいことに対する挑戦心がない」と言われてしまうからです。それゆえ、経営者は必ず、自分がトップになったのを機に自分のカラーを打ち出そうとするのです。例えば、サッカー日本代表監督が「フレッシュな選手の積極起用」を明言し、これまで活躍してきたスター選手を先発メンバーから外すと、マスコミや評論家は「自分のカラーを出そうとした」と高い評価をしがちです。周囲の評価を気にすることも相まって、トップの打ち出す「新たなカラー」は過去の否定、ないしは過去と真逆のものになるのかもしれません。