人事施策 2022年3月07日 「ジョブ型雇用」導入事例と運用のポイント [目次] 「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を図る日本企業 ジョブ型雇用導入の際の重要ポイント まとめ 「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を図る日本企業 職務内容を明確に定義して採用を行い、仕事の成果によって評価や処遇を決める「ジョブ型雇用」。 価値観の多様化や、リモートワークへの移行など、ビジネス環境の大きな変化を背景に、ますます注目が集まっています。 今回は、この「ジョブ型雇用」を積極的に導入・推進している企業の事例と、導入のポイントをご紹介します。 ・富士通株式会社の事例 日本と海外で異なる人事制度を運用していた富士通は、2020年に国内1万5,000人の幹部社員について、報酬体系を職責ベースとする『FUJITSU Level』へと切り替えました。2022年キャリア採用、2023年度新卒採用計画においても、ジョブを起点として職種ごとに適した人材の採用をグローバルに展開し、職責や専門性の高さに応じて個別の報酬設定を含む適切な処遇にて迎え入れるとしています。 一般社員についても、労働組合との話し合いを前提に適用を拡大する見込みです。 ・株式会社日立製作所の事例 日立製作所は、現在、全世界で約35万人の連結従業員を抱えており、すでに日本人よりも外国人の比率が上回るグローバル多国籍企業です。2024年度のジョブ型雇用への完全移行を目標に掲げ、国内でも「ジョブディスクリプションの導入・活用の具体化(職務の見える化)およびリスキル教育の強化」を2021年度の重点取り組み事項に挙げ、新卒採用においてもジョブ型インターンシップを導入しました。 ・株式会社資生堂の事例 資生堂の魚谷雅彦社長が「究極の適材適所」と語るジョブ型雇用。すでに課長以上を対象に2014年からジョブ型雇用を導入している資生堂では、対象の管理職社員からも「自分自身のポジションに求められることがよりクリアになっている」と前向きな評価が得られています。 魚谷社長は、従来の日本型雇用は現在の「変化する時代」に合わなくなってきていると述べ、ポストに応じて役割と専門性を明確にすることが多様な人材の公平な人事につながると考えています。 2021年1月からは、総合職の社員3,900人を対象にジョブ型雇用を拡大しました。 ジョブ型雇用導入の際の重要ポイント ジョブ型雇用の導入にあたって重要なポイントは、「ジョブスクリプションの記載内容」と「ジョブ型雇用契約についての従業員への説明」が挙げられます。 日立製作所の事例にあるようなジョブディスクリプションの作成にあたって、企業はこれまでよりも、職種やポジションごとの「職務内容」「達成目標」「責任と権限範囲」を明確にする必要があります。 ジョブ型雇用の導入前はもちろん導入後も、さまざまな局面で従業員に説明をする義務があります。ジョブディスクリプションに記載のない業務を依頼する場合は従業員が納得できる理由を説明しなければなりません。また、ジョブディスクリプションで定義している職務とは異なる職務への配置換えを行うことが簡単にはできないこともあるため、該当する職務の業務量が少なくなった場合や職務自体がなくなった場合を想定して、予めルールを明確にしておく必要があります。 ジョブ型雇用はドライな印象が強いものの、日本において多くの外資系企業がジョブ型雇用のもと優秀な人材を惹きつけ、かつ従業員のエンゲージメント向上も実現しています。重要なのは、雇用契約やジョブディスクリプションの明瞭さと事前の説明の徹底にあると言えるでしょう。 まとめ いわゆる日本型雇用とも呼ばれるメンバーシップ型雇用は、人材を自社に最適化できる長所がありましたが、ジョブローテーションを繰り返すため従業員に専門性がつきにくい短所がありました。また、待遇が横並びになりやすいため、優秀な人材の獲得競争においても弱い立場に置かれることが多くなります。 ジョブ型雇用は、企業側は優秀な人材を市場価値に応じた報酬で採用でき、従業員も専門性を高めていくことが可能な、雇用が流動化している時代にマッチしている雇用形態だと言えます。 ジョブ型雇用の導入を検討する企業は、他社事例をしっかりと確認して詳細なジョブディスクリプションを作成していくことが必要です。あわせて従業員に対して、人事の方針だけでなく、マクロ環境の変化についても情報発信していくことが望ましいでしょう。 ジョブディスクリプション ジョブ型雇用 企業事例 日立製作所 資生堂
人事施策 2022年2月21日 今さら聞けない「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」 世界経済に暗い影を落とし続けている新型コロナウイルス。一方、アフターコロナを見据えた取り組みとして、これまでの働き方を見直す企業の動きが強まっています。そうしたなかで注目を集めているのが従来の日本型雇用と言われる「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」への転換です。今回は「メンバーシップ雇用」と「ジョブ型雇用」についておさらいしながら、「ジョブ型雇用」が注目される理由について解説します。 [目次] 「メンバーシップ型雇用」の特徴とは 「ジョブ型雇用」の特徴とは ジョブ型雇用が注目される理由 まとめ 「メンバーシップ型雇用」の特徴とは メンバーシップ型の雇用とは「人」に仕事を割り当てる雇用形態です。日本型雇用とも呼ばれているとおり日本企業で広く浸透しています。 新卒採用の際に特に顕著ですが、メンバーシップ型雇用では採用段階で業務内容や勤務地などが限定されません。「人」あっての雇用契約なので採用基準も「どのくらい成長しそうか」「長く貢献してくれそうか」が重視されます。会社方針による転勤や配置転換に従業員は基本的に従うことになります。 企業にとっては長期的に人材の育成・定着に取り組みやすいメリットがあります。従業員にとっても新型コロナウイルスのような予期せぬ環境変化で事業が縮小しても、雇用が維持されやすいメリットがあります。 一方、メンバーシップ型雇用は生産性の向上や人件費の抑制を難しくする面があります。育成や待遇が横並びになりやすいため、たとえば評価制度や人件費にメリハリをつけて最適化したい、といった場合に制度設計の難易度が上がります。 しかし、厳しい市場競争にさらされる昨今の企業は常に生産性向上や人件費の抑制を求められます。また、従業員の価値観も変化し、不本意な人事ローテーションや年功ベース賃金に疑問を感じた人材が、自分のキャリアを最大限に生かせ、かつ正当に評価してくれる人事制度のある企業に転職するケースも増えています。 このような背景もあり、メンバーシップ型雇用は転換点を迎えていると言われ、かわりに注目を浴びているのが「ジョブ型雇用」です。 「ジョブ型雇用」の特徴とは ジョブ型雇用とは「仕事」に人を割り当てる雇用形態です。採用時は自社が求める成果と必要な職務遂行能力を明確にします。企業と求職者は職務・勤務地・労働時間等に合意して雇用契約を結びます。 企業にとっては獲得した人材に高い専門性と生産性を期待できるメリットがあります。成果ベースでの評価もしやすくテレワークとの相性が良いため、コロナ禍で特に注目を集めることになりました。 従業員にとっては、自分の得意な分野に集中でき、専門スキルを高めやすいというメリットがあります。また、若者や女性なども属性で制限されることなく早期にキャリアを積み上げられる傾向にあり、ダイバーシティが進むとも言われています。 ジョブ型雇用が注目される理由 ジョブ型雇用については内閣府や日本経済団体連合会(以下、経団連)が言及しています。 経団連は、2022年1月18日に発表した『2022年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)』で、「ジョブ型」について「導入・活用の検討が必要」と明記しました。 報告では、各企業が自社の事業戦略や企業風土に照らして、組織としての生産性を高めるべく、メンバーシップ型を活かしながらジョブ型を最適に組み合わせた、「自社型」雇用システムをつくり上げていくことが大切だとしています。 過去に記者会見で今後の雇用について「顧客と共に考え付加価値を提供するビジネスモデルへの転換に対応できる人材は日本型雇用システムで育ちにくく、ジョブ型雇用などと組み合わせていくことになるであろう」と発言しています。 すでに資生堂、日立製作所、富士通、KDDI等、ジョブ型雇用の導入を図っている企業も現れています。一方で、多くの日本企業は転換に慎重です。 ダイキン工業の井上礼之会長は、2020年8月の朝日新聞紙上において「遅咲きの人もいる」と、昨今の働き方の変化に懸念を示しています。日本企業の能力開発費が減少傾向であることも懸念点の一つとして挙げられます。 失業率の低さや新卒の育成など従来の日本型雇用の良さも見直される中でのジョブ型の流れですから、当面はハイブリッド型の雇用形態を模索する動きが増えると考えられます。デメリットを抑えるためには、人材育成とセットで考えていく必要もあるでしょう。 まとめ 企業にとっては長期的な人材育成、従業員にとっては雇用の安定というメリットがあるメンバーシップ型雇用は、これまでの日本企業の強みを生み出す源泉だったと言えます。しかし、2000年代以降のグローバル化、IT化による産業の変化に対応し組織の競争力を上げるために、専門性や生産性を高めやすい方法としてジョブ型雇用が検討され始めました。 ジョブ型雇用は、変化が激しく雇用が流動化した環境下において、企業と個人の双方にメリットをもたらすこともできると期待されています。メンバーシップ型雇用が機能しづらくなっている現在、企業はジョブ型雇用のメリットをうまく取り入れて、時代に合わせて雇用のあり方を最適化する必要があるでしょう。 JOB型雇用 ジョブ型雇用 メンバーシップ型雇用 日本型雇用