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大知 俊基

大知 俊基

「学ぶ力」とは

「学ぶ力」とは

研修は主催する側と受講する側の互いに異なる2つの立場の者が交わるコミュニケーションの場であり、双方のコミュニケーションの質を向上させることが、学びの質、つまり学習効果を上げるということを前回のコラムでお話ししました。そこでは研修を主催する側の能力の向上だけではなく、受講する側の「学ぶ力」を高めていくことが学習効果の向上や成果につながるということに触れましたが、今回はその具体的な例を述べましょう。

「目から鱗」だけでは…。

前回コラムでとりあげたマネジメント研修の参加者を例にして考えてみます。社長メッセージや上司からの手紙で管理職としての心構えの重要性に気付き、これまでの自分のスタンスを反省し「目から鱗」の状態。研修から戻ってきてしばらくは、明らかに表情や発言に変化が見られ、部下の育成にも熱心になりましたが、1週間もするとまた元に戻ってしまいました。このようなことに心当たりはありませんか。ゴルフや英会話、受験勉強でも同じです。ゴルフのレッスンを受けてスイングの改造に取り組み、自称「110の王」も返上と息巻いていましたが、レッスン中は調子が良いけど実際コースに出るとさっぱり、なんて言う話はよく聞きます。

一般的にものごとを習得する際のステップには4つあります(図参照)。

(図:学びの成熟モデル)

 

「知っている」は、聞いたことはあるが十分に理解していないため説明はできない状態。「分かる」は、内容を理解し説明もできる状態。「できる」は、実際にスキルとして身に付き行動に移せる状態。研修という手段では「できる」という状態まで持っていくことはできますが、実際の職場に戻った際には更にその先の「使いこなす」までできなくてはなりません。そこには研修という施策の限界があります。先のマネジメント研修では、目標設定の方法、部下とのコミュニケーションの仕方、面談の進め方はケーススタディやロールプレイで習得できます。つまり、「知っている」から「分かる」に変わり、更に「できる」状態です。研修が終わった直後に職場に戻った段階ではこの「できる」という状態になっています。ただ、その状態が長く続かなかった、「できる」から「使いこなす」状態にならずに元に戻ってしまった、と言えます。では、「使いこなす」ためには何が必要なのでしょうか。

「使いこなす」ためには

 研修で習得したことを「使いこなす」ために必要なこと、それは「継続」です。2019年3月21日、メジャーリーガーのイチロー選手が現役の引退を発表しました。彼の言葉を借りて言うなら、「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道」です。先のマネジメント研修の例で言うなら、一時的に「目から鱗」の状態でしたがその後「継続」できなかったため、しばらくしてまた元に戻ってしまいました。では、研修で習得したことを使いこなすために「継続」していくには何が必要なのでしょうか。ここに、研修を受講する側の視点から見た2つの「学ぶ力」が必要となります。

 「学ぶ力」の1つ目は、「自分ごと化する力」です。研修で習得した内容は誰にでも通用するあくまで汎用的なものです。ロールプレイなどは、特定のシーンや事例を取り上げ、問題の体系化や解決に必要な力を身につけるための学習方法です。研修を通じて「できる」状態になったとしても、実際に部下を指導していく場面では自分の言葉で語れないと、納得のいく指導ができない、うまくいかない、という状態に陥ってしまいます。研修で体験した面談のロールプレイがそっくりそのまま部下とできるとは限らないのです。「できる」から「使いこなす」になるためには、汎用的な内容を自分の言葉に置き換え「自分ごと化」した上で、自分が理解できるだけでなく相手にも共感され、納得してもらうことが必要となります。

 「学ぶ力」の2つ目は、「目指すべき姿をイメージする力」です。現在、自分がどのような状態にあるのかを客観的に見極め、かつ将来的にどのような活躍をしたいのか自分の「信じる道」を具体的に描ける能力です。先のマネジメント研修の例では、部下とどのように接していきたいのか、自分がどのような管理職になりたいのか、部下を育成して組織に貢献しているとはどのような状態なのかを具体的にイメージする必要があります。ダイバーシティが進んでいる昨今、部下の多様性も一昔前とは大きく異なってきています。研修で習得した標準的なコミュニケーションだけでは、スムースにいかないケースもあるかもしれません。自分の「目指すべき姿」「信じる道」が明確になって初めて、既知の問題だけでなく未知の問題に対応できるようになり「使いこなした」と言えることができます。

人事施策としてできること

 研修で習得したことを「使いこなす」ために必要なことは「継続」であり、「継続」するために必要な「学ぶ力」は、「自分ごと化する力」と「目指すべき姿をイメージする力」です。研修の効果を高めるためにも、会社や組織としてその「学ぶ力」を向上させるためにできることはないのでしょうか。

 「自分ごと化する力」を補完する施策として、メンター制度が挙げられます。多くは新人や若手を育成するために、通常の業務上の上司とは別に、日常の社会人生活やプライベートでの悩みなども相談する立場の先輩社員をアサインするという制度ですが、自分の判断軸を補完しより強固にしていくためにも有効な制度であると考えます。最初から確固たる自分の軸を持てる人はいません。「創造は模倣から始まる」という言葉もありますように、最初はだれか他の人の判断軸を真似(見習い)、徐々に自分の軸を形成していくというアプローチが良いように思われます。そのプロセスの中で、周りからも適切なフィードバックを受け、自分の軸をより強固なものにしていくことができると考えます。

 もうひとつの「目指すべき姿をイメージする力」については、会社や組織としての人材像を明確にすることが有効です。会社全体の人材育成体系を整備・構築していく段階で、必ず目指すべき人材像を定義します。そこで定義された人材像には、その会社の事業への貢献の道筋が明確に描かれており、将来的にどのような活躍をしたいのか自分の「信じる道」を具体的に描くために非常に参考になるはずです。逆に、組織の中で活躍したいと考えるなら、その人材像に沿って自分の「信じる道」を描いていくのが早道でしょう。

 Amazonの書籍のカテゴリで、「教える」と「教わる」で検索をかけてみてください(ここでは「学ぶ」ではなく、あえて「教える」の対義語として「教わる」としました)。「教える」では、7,000冊以上の書籍が出てきますが、「教わる」では225冊しか出てきません(2019年4月9日現在)。世の中では、いかに「教える」ということが充実していて「教わる」はまだまだ不十分であることがこの結果からも見て取れます。

 

研修は、ともすれば経営課題の2番目もしく3番目に掲げられてしまい、「とりあえず実施すること」とされる傾向があります。しかし、本来人材育成や研修といった人事施策は経営の一部であり、その組織が成長し続けるために必要かつ重要な経営戦略の1つであるべきです。そのためには、研修をおこなった結果、社員の意識や行動が変わり経営に資する成果を出すことが必要です。プロジェクトや会議にゴールがあるように、研修にもゴールが存在します。そのゴールに向かって研修を主催する側と学ぶ側が双方の能力を最大限に発揮し活かすことができれば、必ずや組織の戦略達成や事業の継続に寄与できると信じています。

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