コラム
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管理職は不遇?「やりがい」を再定義して “プレイングマネージャー改革”を
「マネージャーになったら業務は倍、責任も倍、報酬は微増」
「働き方改革は進んでいるのに、管理職だけ“タイパ無視”の激務にさらされている」
最近、そんな声をあちこちで耳にします。「管理職になっても…罰ゲーム」と揶揄される風潮すらあり、若手社員の中には「出世を望まない」という本音を抱える人も少なくありません。
ですが、マネジメント機能が弱体化すれば、組織全体が立ち行かなくなってしまいます。マネジメント層において「プレイングマネージャー」という働き方が前提化している今の時代には、制度の側から現場を支える仕組みが不可欠です。
「管理職が育たない」の真因は“期待の不明確さ”
どれだけ研修を重ねても、次世代のマネージャーが育たない――。
そんな焦りを感じている人事、経営者は多いのではないでしょうか。
原因は、スキルや意欲の不足ではありません。むしろ多くの場合、マネージャーに何を期待しているのかが組織として明示されていない、という構造の問題が横たわっています。
今の時代、マネージャーの多くはいわゆる「プレイングマネージャー」です。専門業務についてはプレイヤーとして極めて具体的に理解・実行できるのに対し、マネージャーとして求められるものは抽象的で、経営者が何を求めているのかがわかりづらい。となると、重要性や緊急性が体感的にわかっている専門業務に傾くのは必然で、それが会社の期待との乖離やマネジメント不全だけでなく、マネージャー自身の疲弊にもつながっているのです。
まず取り組むべきは、“構造を整える”こと。その第一歩が、役割の再定義と明文化(役割定義書の作成)です。
「やるべきこと」が見えると、マネジメントは動き出す
役割定義書とは、マネージャーが担うべき業務や期待される行動を明示したものです。
いわゆるジョブディスクリプション(職務記述書)に近い考え方ですが、私たちはこれを評価制度のための道具ではなく、現場の行動と判断を支えるための道しるべと捉えています。
ある製造業では、課長職以上を対象に「成果領域」と「行動領域」の2軸で役割定義書を作成しました。
成果領域には「部門目標の達成」「後継者育成」など具体的なアウトカムを、行動領域には「意思決定」「チーム内連携」「人材配置判断」などを設定。この定義をもとに、期初の1on1面談で“どこに注力するか”をすり合わせ、期中はその領域を重点的にモニタリング・支援するという運用を行いました。
その結果、管理職側からは「やるべきことが整理された」「上司とのズレがなくなった」といった声があがり、目標に向けた行動の質が格段に向上したといいます。
このように、役割定義書は単なる紙ではなく、現場の行動と対話を変える起点になるよう設計すべき道具なのです。
プレイングマネージャーを「なんでも屋」にしないための“重み付け”
役割定義を導入する際に最も注意したいのが、期待を盛り込みすぎて“全部やれ”状態になることです。
レバレッジ・効率化を追求する潮流の中で、「最小の人員で最大の成果」はもはや正義となりつつあります。そのせいで、業績、イノベーション、人材・組織の活性化、業務効率化…と、あらゆる成果をプレイングマネージャーに課してしまうケースが後を絶ちません。私たちはこの状態を「役割過剰モード」と呼んでいます。
これを防ぐための鍵となるのが、“重み付け” “優先順位”の考え方です。
たとえば、新規事業を担う今期は、マネージャー本人にも専門知識を活かし、業績向上に注力してもらう、新入社員が複数人入ってきた部署のマネージャーにはオンボーディングと目標管理を最優先にする、といったように、実現したいことをすべて詰め込まず、マネージャーの置かれている状況に合わせた「達成すべき具体的なキーポイント」について合意することで、現場の迷いを減らし、「経営と現場の一体感」や「パフォーマンスカルチャー」を生み出すことができるようになります。
心理的安全性と納得感を支えるコミュニケーションの枠組み
マネジメントの制度設計とは、言い換えれば、マネジメントの役割を洞察し、再定義し、経営者と管理職間のコミュニケーション形態を再構築することです。ですから、役割定義を有効に機能させるには、制度と運用の両輪が欠かせません。中でも見落とされがちなのが、心理的安全性と納得感を支えるための枠組みです。
たとえば、
- マネージャー会議の中に「役割の再確認」パートを設ける:方針変更や組織改編のたびに、役割期待を言語化して再提示
- 経営層からの“感謝”と“期待”の発信:事業計画発表などの場で、マネージャーに対してあえて言葉でねぎらいと方向性を伝える
といったように、日常のルーティーンにマネージャーのサポートを組み込むことが「管理職は孤独に戦うしかない」という状態を避けるためには重要です。制度によってマネージャーを“業務面”で支え、運用によって“感情面”でも支える。この両方が揃って初めて、プレイングマネージャーが「やりがいを持って前に進める」状態が実現します。
複線型制度が、“無理な登用”をなくす
もう一つ重要なのが、「そもそも適性がない人をマネージャーにしない」ための制度づくりです。
プレイヤーとして優秀な人が、マネジメントの役割を担った途端に苦しむ――これはどの企業にもある共通の悩みです。その背景には、「マネジメントが評価・処遇上の唯一の昇進ルートになっている」ことがあります。
この課題に対して、複線型の等級制度を導入する企業が増えています。
たとえば等級制度を「マネジメント職群」と「プロフェッショナル職群」に分け、それぞれで期待役割・評価基準・処遇水準を設定。プロフェッショナル職群でも等級を上げれば報酬が上がる仕組みにして、適性や本人の意思がない人材を無理矢理マネージャーにしないという制度にするのです。この制度設計があることで、マネジメントへの向き不向きを踏まえた登用が可能となります。
しかし、複線型等級制度は有用な一方で、複雑さゆえに運用しづらくなるリスクもあります。特に、企業規模が大きくなるにしたがい等級区分が細かくなりすぎてしまい、かえって「次の等級に上がるためにはどうしたらよいのか」がわかりづらくなる、といったケースは多くみられます。
等級は、スキルセットを明文化し、分かりやすさを担保することが非常に重要です。それによって、従業員自身の昇進に対する目標だけでなく、マネージャーがメンバーを指導する際の指標も明確にできるため、透明性や納得感を生み出しやすくなるのです。
“やりがい搾取”にならない制度整備を
冒頭で「管理職不遇」の時代だと述べました。この風潮の背景には、役割のあいまいさと、報われにくさがあります。
「育成にも貢献して、チームも回して、目標も達成して、それでも“やって当然”」
そうした空気がある限り、マネジメントに前向きな人は育ちません。
役割を明確にし、現実的な期待に重みづけをし、適切に報いる仕組みをつくる。そうした仕組みによって、プレイングマネージャーという働き方を、“自分らしいリーダーシップを発揮できる場”に変えていく必要があるのです。
