コラム 2018年11月15日 幸前 夛加史 筋トレでAIを使いこなす! 「AI」というワードもすっかり耳に慣れ、毎日10回は聞いているのではないかというほど一般的な言葉になってきました。その一方、何でもAIに結びつけられて、かえってよくわからなくなってきているというのも実感でしょう。 私たち人事コンサルティングの現場でも、社員の採用、育成、配置、リテンション、エンゲージメントの向上などの領域で、従来の経験や勘だけではなく、多様なデータを分析して政策を決定していこうとする潮流が生まれ始めています。そのカギを握るのが「AI」を装備したツールといえます。 思い起こせば10年ほど前にはBIというワードでいくつものソフトウエア製品が発表されました。BIとはBusiness Intelligenceの略語で、Wikipediaでは「企業などの組織のデータを、収集・蓄積・分析・報告することで、経営などの意思決定に役立てる手法や技術のこと」と説明されています。 一方AIはArtificial Intelligenceの略で、人工知能とも言われ、「言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピュータに行わせる技術」という説明になっています。 こうして並べてみると、その内容はかなり異なりますが、明確に違いを認識している人は少なく、何となくデータを分析して状況を可視化するというイメージでとらえられているのが多数でしょう。 本コラムでは、世の中のトレンドワードを追いかけているだけでは、大事なことを見落としてしまう可能性があるということを伝えたいと思います。現在BIは話題性では下火になっているように見えますが、その考え方や役割は今でも十分に通用するものです。AIも将来は世の中を大きく変えるかもしれませんが、現段階ではそれで全てが解決するというものではありません。 つまり、もっと本質的な部分を理解し取り組んでいかなければ、新しいテクノロジーやコンセプトも本当に役立つ道具として使いこなせないまま、一時の流行として終わりかねないということなのです。 そこで浮かんだのがAIを使いこなして行う「データ分析」を「筋トレ」と見立てると非常に似ているという発想でした。 最近コンサルティングの現場においてHRテックに関連した相談を受ける実情を踏まえると、データ分析に基づいた意思決定を行う作業は、毎日筋トレをするようなものであり、一朝一夕に大きな効果を得ることは難しいが、目的を達成するにためには、次のような避けて通れない地道なプロセスやルールが存在するということです。
コラム 2018年9月19日 現地レポート! 2018年のHR Technology Conference & Exposition in Las Vegas (第1回) 初めまして、セレブレイン社のカリフォルニア駐在マーケティング担当 中澤佳奈生です。 1997年に始まった「HR Technology Conference & Exposition」は、今年で21回目を迎え、9月11日から14日までラスベガスで開催されました。 HR テクノロジーに関する世界最大級のイベントとして、年々その規模と勢いを拡大させており、数多くのセミナーやセッションに加え、400社以上の企業が出展しています。 私もHRTechの市場や最新の技術トレンドを知ることができるイベントいうことで、今年もワクワクしながら参加してきました。開催初日の午前10時のオープンにはすでに多くの参加者が開場を待ちわびており、多方面からの注目の高さがうかがえました。 HR Technology Conference & Exposition では、HR関連コンテンツの動向とともに、AIなどの最新の技術を活用した新たな製品やサービスのトレンドを実感することができます。 多くの企業で、ビジネスの成長を支える人材の活性化や生産性向上が求められ、人事部門の役割が注目される中、HRTechを活用した人事と組織の改革が進みつつあることも、このイベントが注目を浴びている大きな理由となっています。 HR Technology Conference & Expositionはその名の通り「カンファレンス」と「エクスポ」から構成されています。11の コンテンツトラックで構成される59のセッションが聴ける「カンファレンス」と、ソフトウェアベンダーが自社製品を出展する「エクスポ」に分かれています。「エクスポ」では、毎年注目を集める「スタートアップパビリオン」と「ピッチコンテスト」、20社以上のソフトウェアベンダーの「デモセッション」がありました。 また今年は、「HR ハッピーアワー」が夕方4時半からスタートしました。多くのエクスポ出展ブースではビールやワインなどのドリンクとフィンガーフードが提供され、カジュアルな雰囲気の中で出展者と参加者との熱い議論と交流が行われました。アメリカも日本も少しアルコールが入ると議論が盛り上がるのは同じですね・・。 私の第1回レポートでは、今年のイベントの中で、特に興味深かったテーマを3つ取り上げ、紹介したいと思います。
コラム 2018年8月21日 服部 篤 AI時代のES(社員満足度調査)とアナリティカルシンキング ES調査に関連したデータとして、2011-2012年にかけて142か国20万人以上を対象にギャラップ社が行った「国別のEmployee Engagement比較」によると、日本においては会社に対して 「Engage(愛着がある、信頼関係があるの意味)している」と答えた比率はわずか 7パーセントであり、先進国中一番低いとのデータがあります。世界において日本の人口一人当たりのGDPが年々ランクダウンしているのは、このあたりも要因の一つかもしれません。 一方、2017年4月の労政時報における「人事関連制度の改定状況アンケート」における回答企業の「4割強がES調査を実施し、そのうち7割は新たにES調査を開始した」との結果で見るようにES調査を実施する企業は確実に増加しているようです。 近年、我々のクライアントからも以下のようなニーズでES調査のご相談を頂くケースが増えています。 過去に実施したES調査の結果に対して、様々な施策を実施してきたが、その効果を検証したい。 これから定点観測として定期的にESを実施し、Engage効果を高めていきたい。 投資ファンドが投資先企業の社員の意識の現状を把握しておくためESを行いたい。 新たにES調査の取り組みが増えている理由は、ESの高い企業ほど業績に好影響を与える傾向があるとの認識が高まったこともありますが、ここで改めてとその背景について取り上げてみたいと思います。 まず考えられるのは、採用環境が売り手市場となり、人材獲得競争が激しくなっていることがあります。つまり、これから採用しようとする人材に対し、社員の満足度が高い企業とのイメージをアピールして応募者を増やす必要があるためであり、もう一つは、既存社員の離職を抑制するために、ESサーベイを活用して実効性のある施策を打つことが重要な課題となっているためです。 既存の社員に関して言えば、新たな人材の確保や育成にかかる費用が膨らむ中、実際にその投資に見合う人材の採用が不確実である状況を考えると、既存社員のモチベーションや能力向上に投資をした方が総合的なメリットが大きいと考える企業が増えていることがあります。 また、企業内には正社員だけではなく、契約社員、パート・アルバイト、派遣社員など多様な雇用形態が存在し、働き方もフレックス、リモートワーク、短時間勤務、副業など選択肢が増えています。その中で、きめの細かいESサーベイによる検証を行い、全体最適かつフェアな施策の必要性が高まっていることも見逃せません。 かつては、ES調査の結果がネガティブに出る事態を危惧して、実施をためらっていた企業も、ES調査を活用した施策によるエンゲージメント向上が社内の活性化や業績に好影響を与えるという認識が高まり、ESの実施に向けたハードルが下がってきたことも大きな要因でしょう。 ES調査の実施にあたっても、以前は紙やPCが中心でしたが、近年のクラウドサービスの進化に加えスマホやタブレットの普及によって、簡便にアンケートの実施と回収が可能となり、手間のかかる紙による制作や回収作業がなくなったことも増加につながっています。 従来はES調査で収集した結果だけを検証して施策を検討するケースがほとんどでしたが、現在は収集されたデータの活用方法も大きく変ってきています。最近、我々が行ったコンサルティングに、ES結果のデータだけでなく、多様な人事データ(評価項目の結果、研修実績、出退勤時間、残業、有給休暇傾向など)をAIをエンジンとする解析ツールを活用して多次元のデータを分析するプロジェクトがありました。その結果「パフォーマンスの高い組織と低い組織との違い」「退職や休職に至る人材の特性」など、いままで着目されていなかった要因を抽出することができ、一歩先を読んだ効果的な人事施策を打つことが可能になったのです。 通常ES調査において従業員満足度を分析するポイントは大きく「①仕事自体と評価」「②働く条件と環境」「③会社への信頼感」の3つだと言われています。その各ポイントの要素を企業特性に応じて可能な限り具体化し、データ化し、見える化し、収集し、分析することで、始めて実効性と即効性のある施策に直結し、社員の満足度、エンゲージメントを高めることにつながります。 働く環境といえば、近年AIやRPA(Robotic Process Automation)の進化により、これまでシステム化が難しいとされていた人手による事務処理の領域も自動化が容易になりつつあり、ルーティーンワークの多くを機械が代行する事から、人にはより高度で独自性の高い役割が求められる状況になっています。 今後、組織と人の在り方や生産性がますます重要となっていく中では、ES調査だけでなく、組織内にどのようなデータが蓄積されているのか? 重要なデータとは? データから何を解析するのか? 解析した結果をどのように活用するのか? など・・・これまでとは異なる新たな思考とアプローチによる意思決定と施策が必要になっているのです。 ビジネスの現場でAIや機械学習が活用される時代には、ビジネスリーダーの果たすべき役割は、ES調査に限らず、多様なデータを分析し活用した意思決定と施策の実行です。 セレブレインでは、データを分析して意思決定するために欠かせない実践的アプローチ手法を身に着けるプログラムとして、アナリティカルシンキング(ATT)トレーニングを提供しています。ご興味をお持ちの方は、お問い合わせ下さい。
コラム 2018年7月10日 関 将宏 HRTech時代にExcelは終焉を迎えるのか? 新卒からコンサルタントとして働いている自分にとって、Excelはもっとも情愛を注いだツールと言っていい。クライアントのデータの整理・可視化だけでなく、プロジェクトのスケジュール表や作業工数の見積もりにも活用していた。新しい関数を覚えては「これで作業時間が2分縮まる!」と喜んでいたし、何かメモを取るときにもWordやメモ帳ではなくExcelを開いていた。 そんな中、昨今は人事の世界でもデータ分析の風が吹いている。HRTechと呼ばれる人事業務とテクノロジーの融合により、評価・勤怠・モチベーション・コミュニケーションとあらゆる社員の情報がデータ化されつつある今、それを分析することで、社員と部門のマッチングや休職予測などに役立てようというものだ。 私自身、過去にExcelをかなり複雑な分析に使用したこともある。計算用のシートを作りながら細かく設定を変えてグラフを作り、変数を変えながら何度も統計解析を行うなかでは、それなりの手間を感じていた。 しかし、最近はBI(Business Intelligence)ツールにより、簡単にヒートマップのような高度なグラフを作成し、ダッシュボードとして定点観測できるようになった。また、機械学習エンジンを搭載したツールも登場し、R言語と呼ばれる統計解析向けのプログラミング言語を習得することなく、クリックだけでランダムフォレストなどの分析が可能になった。 私も現在携わっているデータ分析プロジェクトで機械学習のツールを活用しているが、昔の苦労が嘘のように簡単に分析でき、更に分析結果がビジュアライズされるので上司やクライアントへの報告もスムーズで、非常に重宝している。 Excelの時代は終わったのだろうか。データの整理すらBIツールなどでできるようになった今、あの表計算ソフトは時代とともに1つの役目を終えたのだろうか。 私もはじめはそう考えていた。しかし、少なくとも人事コンサルティングの世界では、まだまだ活躍の場が幾らでもあることに気付いたのである。 例えば評価シートである。新たに人事制度を入れるような会社では、いきなり予算を投じて評価システムを入れることは少なく、「まずはExcelで」と言われることが多い。最終点数の算出欄に計算式を埋め込んでおき、等級に合わせて表示される行動目標が変わるように設定する。更に、それを部門ごとに集計するシート、人事委員会で評語(S・A・B・C・Dなど)を調整するためのシートも用意しておき、Excelで通期評価を実現するのが現実の場では最善である。 また、簡単なシミュレーションツールなどもExcelの活躍の場である。等級毎・評語毎のパラメータを入れれば、賞与の金額を自動で決定するツール。昇格候補の社員だけをピックアップして、残予算と比較しながら昇給金額を調整できるツール。このような使い方も、特にExcelに慣れているクライアントの人事担当者にとっては大変喜ばれる。難しいツールやマクロを使った成果物では、メンテナンスができない。実際に現場で使うツールは使いやすいものでないとダメなのだ。 こうしたExcelの新たな活躍領域には、一つの共通点がある。それは「データを集計・分析するのではなく、シートそのものをデザインすることに価値がある」という点である。 何千行もあるデータからグラフを作成したり、平均値を算出したりするような作業がメインではない。評価シートであれば、シート全体をA3に収めながら、時にはセルを結合し、時には入力対象者別にセルの色を変える。シミュレーションツールであれば、パラメータと結果のシートを分けておき、どのセルが何のパラメータの影響を受けているかメモ書きしておく。 複雑な関数を使うことはなくとも、その分、創造の幅は広がる。「相手にとって使いやすいもの、分かりやすいもの」というポイントをもとに、各シートの設計からセルの幅・高さまで、自由に組めるからである。 データを整理し、集計し、分析するためのExcelは、日進月歩の強力なツールにより、いずれ取って代わられる日が来るかもしれない。しかし、簡易で使いやすい人事業務のツールとしてのExcelは、間違いなくこれからも活躍し続けるだろう。私にとって、Excelの一つ一つのセルはこれまで共に戦ってきた無数の相棒である。私は、これからも“彼ら”に情愛を注ぎ続けていく。現場の最前線を変えていくのは“彼ら”であるのだから。
コラム 2018年6月12日 ヘッドハンティングの成功と不成功を分けるもの? 先日、「ヘッドハンター」というTVドラマが最終回を迎えました。 企業のビジネス課題と人のキャリアと転職への葛藤がテーマであり、放送が遅い時間帯ということもあって、平均視聴率は必ずしも高くなかったようですが、ビジネスマンの間ではかなり話題になっていました。 海外では、エグゼグティブ層を中心にした人材の獲得手段であるエグゼクティブサーチコンサルティングと呼ばれるヘッドハンティングとはそもそもどういう手法なのでしょうか? 最近、日本でも「ヘッドハンターからスカウトメールが届く」という転職サイトもでてきているように、ヘッドハンティングという言葉が日常的に使われるようになっています。 急速に進む市場環境やテクノロジーの変革に対応するため、多くの企業で事業構造の見直しが進む中、以前は、エグゼクティブ層が中心であった依頼案件が最近ではミドルマネジメント層や特定のスキルセットを有した人材へと対象が拡がってきています。 ヘッドハンティングという言葉の意味を調べてみると、次のように具体的なプロセスで説明がなされています。 「特定の経営課題に対して社内に解決できる人材リソースが不在であった場合、この課題解決をするために必要な経験や能力を有した外部の適当な人物を特定し、より良い給与や役職、機会を提示し、引き抜きを行うこと」 つまりヘッドハンティングとは 経営課題の特定を行い 人物を特定し より良い機会を提示し 引き抜く そして、特定の経営課題を解決したい企業に代わって、この一連の作業を行う人をヘッドハンターと呼びます。ドラマ「ヘッドハンター」では、ストーリーが誇張されている点はありましたが、部分的には実際のヘッドハンティングのシーンをリアルに描いていたと思います。 さて、ではこのヘッドハンティングをいかに成功させるか? ポイントは色々とありますが、失敗しやすいケースが最初のステップである「経営課題の特定と明確化」 です。 これは採用活動、特に即戦力を求める中途採用を行う場合に共通している課題と思います。 採用すべき人材の要件を明確にするには、まず「どのような経営課題をどのように解決したいのか?」が具体的になっていないと採用活動が円滑に進みません。 私たちがまず行うのは、クライアント企業が抱える問題認識や課題を出来る限りブレイクダウンし、具体化するお手伝いをすることです。その過程で新たな課題を発見し、要件の見直しを行うことも多くあります。 実際にお手伝いしたA社の例でいえば、当初の依頼は・・・・ 「西日本エリアの販売力を強化できる幹部クラスの人材を探してほしい・・」でした。 これだけではA社が求める適任者を採用することは難しいでしょう。 必要なことは、事業、組織、人などの課題を具体化することで適任者の人材像を明確にし、共有することです。 西日本営業部門を統括、その中で特にポテンシャルの高い代理店チャネルを強化し、売り上げ拡大を図る責任者として活躍を期待。 そのため地域の主要代理店の経営者との連携を強化し、代理店としての営業戦略から販売促進活動まで一体となって推進する。 現営業体制の営業マネジャー3名を含む20名から30名程度に体制を拡大強化し、営業戦略の浸透を図り、売上を3年で2倍に拡大させたい。 売上拡大施策の一環としてマーケティング部門、商品開発部門と連携して当該地域特性に合わせた高収益商品を投入する計画。 ・・・・・などと、出来る限り具体的に落とし込んでいき、人物的な要素についてもコンセンサスを図っていきます。 当然ながら経営課題は上記例にある営業部門の課題だけでなく、経営、財務、事業承継、新規事業、M&AやIPO戦略、海外進出など多様です。まずはそれらの経営や事業推進における課題を具体的な項目に落とし込む作業を行うことで、本当に社内に適任者が不在なのか?社外に人材を求めるとしたらどのような要件を満たした人材が適任か?どこに適任人材がいるのか?を明らかにする事が可能になり、課題の早期解決につながります。 この作業は、私たちが人材サーチ(ヘッドハンティング)の依頼をお請けする際、最も重視しているプロセスの一つです。 トップエグゼクティブクラスのヘッドハンティングの場合は、個別に要素が異なりますので現場を巻き込むことはあまりないと思いますが、中堅以上のマネジメントレベルの採用においては、採用プロセスを経営課題解決のプロジェクトとして捉え、採用候補者が現場と深くかかわる場合には、事前に現場レベルの関係者も交えてコンセンサスを取っておくと、 候補者のターゲットリサーチをする際にも現場から有力な情報を得る事ができるなど、その後のプロセスがスムーズになります。 実際の担当したプロジェクトにおいても、クライアント企業の管掌役員が自ら社内に採用プロジェクトへの理解と賛同を得つつ、ヘッドハンターも参加してヒアリングと情報収集を行った結果、数十名の有力な候補者情報を得る事ができました。私たちが候補者とコンタクトを図る際にも自信をもってプレゼンテーションとアピールすることが可能になり、プロジェクトは大きな成果を上げる形で終えることができました。 もちろんヘッドハンティングの成功には、クライアントと候補者の双方にとってWin-Winの状態であることが不可欠です。クライアントサイドの課題を具体化すると同時に、候補者の将来キャリアについての課題を明らかにするプロセスも一層重要になります。 例えば、仕事の内容、勤務地、ポジション、将来性、職場風土、価値観、処遇、家族、家・・・・など人材固有の課題や不安要素を解消するプロセスも慎重に進める必要があることは言うまでもありません。このあたりが一般の公募や登録型の採用に見られるミスマッチが少ない理由であり、決定的に異なる点といえます。 クライアントサイドも候補者にとっても、最初に課題を具体化し明確化するという最初のボタンを掛け違えてしまうと、後から軌道修正が困難になり、プロジェクトの長期化や不成功に終わる確率が高まります。 クライアントがヘッドハンティングを依頼するケースは、経営における重要度や緊急度が高い状況に置かれている場合と想定されます。前述のプロセスも経営課題解決の重要なプロジェクトとして取り組めばヘッドハント成功の確率が大きくアップすることは間違いありません。
コラム 2018年5月15日 関 将宏 AI最前線で!「ヒトの認識能力」の再発見と開発 最近、採用の現場で候補者のデータをAIツールで分析し、選考を行う企業が頻繁に取り上げられている。ところが先日、採用選考にAIの導入を検討したが見送った会社の例に出会った。 AIの方が人間と比べ圧倒的な処理速度で判定が出る上、特段に的外れな点はなかったにもかかわらずであった。理由は、AIが「なぜその人を選んだのかを説明しないこと」にあったという。「採用は非常に責任を伴う判断であり、判定の合理性を多面的にチェックする必要がある」ということで、改めて1人1人の判定理由を検証したところ、「結局、従来とやっている事が変わらない」という結論になり、導入を見送ったとのことであった。 この例は「データ分析ツールがいくら高度になっても、それだけでは必ずしも現状の変革や進化につながらない」 という、興味深い示唆に富んでいる。 実際、著名なデータサイエンティストである、大阪ガス(株)ビジネスアナリシスセンター所長、河本薫氏も、著書『会社を変える分析の力(講談社現代新書)』の中で、「ITや分析手法をどんなに備えても、データから問題を解明するプロセスを構想する力がなくては、意味のあるデータ分析は生まれない・・」「どんな分析問題に挑むか、どのようなデータを集めるか、どのような分析手法を用いるか、分析結果をどのように解釈するか、すべては人が考えること・・」と述べている。 要は、データ分析を適切に進めるには人によるマネジメントが不可欠ということである。 セレブレインでは最近、人事データの分析に関連するプロジェクトを幾つか手掛けている。静的な人事情報に加え個人の評価項目の内容や勤怠、日報等のデータから、ハイパフォーマーの特徴や退職・休職者の傾向を早期に見出し、政策の提言を行うものである。 私も実際にプロジェクトで分析に携わったが、当初想像していた 「データを取集してインポートし、後は機械に処理してもらうだけ」というメージとは大きギャップがあった。 AIを実践的に活用するには、ヒトのもつ認識能力の重要性を理解し、以下のようなアプローチでしっかり対応していくことが望ましいのではないかと考えている。
コラム 2018年4月17日 AI時代の「新たな働き方改革」と人事データの活用 テレビなどのメディアでAIがプロ将棋名人に勝利したニュースが大きく取り上げられていましたが、今やAIや機械学習に関する記事を見ない日はないほどに注目を浴びています。さまざまな職種で、人が行っていた仕事をAIが取って代わる状況が生まれつつあり、これからの働き方改革は「AIを実装したシステムや機械といかに共存していくのか」が主要なテーマになるのではと予想されます。 企業の人事部門でもAIを活用した採用選考や人材配置に取り組む例が出てきています。また人事データの分析にAIを活用し、新しい気づきや発見を得て、経営課題の解決に取り組む動きもあります。 今回は、これらの人事データ分析におけるAI活用のメリットと成功のために欠かせないデータ準備の在り方についてお話ししたいと思います。
コラム 2018年3月19日 コンサルタントコラム 人事改革最前線 非正規社員の人事マネジメント -「多様な働き方」時代のKSF(Key Success Factor)- 毎年3月は進学や就職・転勤など、人の異動が多い時期であるが、今年は引越し業界に異変が起きている。引越し会社の依頼引き受け件数が減少し、新年度の準備が間に合わない人が続出しているそうだ。働き方改革による労働時間短縮、さらには人手不足により十分な人員が確保できないことが要因である。 引越し業界に限らず、近年人手不足に悩む会社が多く、百貨店やショッピングセンターが営業時間を短縮したり、外食チェーン店が店舗閉鎖に追い込まれたというニュースもあった。これらの業界はパート・アルバイトなどの非正規社員が多く、人材を採用するために時給アップや社員登用制度など、各社努力しているが、それでも苦戦しているようだ。その影響もあり弊社に、非正規社員向けの人事制度を整備し人材確保に繋げたい、という相談が増えている。 一般的には、正社員よりも職責や権限、報酬などが限定的で定着率が低いため、非正規社員の人事制度は簡素なものが多い。しかし実は、非正規社員は正社員よりも多様性への対応が必要で、制度設計は慎重に行う必要がある。なぜなら「非正規社員」と一括りに言っても、そのバックボーンや働き方、給与、キャリアなど「働くことに対する価値観」が多様であり、人によって効果的な打ち手も変わってくるからである。 たとえば、育児や介護・家事など家庭の事情と両立して働きたい人は、給料の高さよりも働く日や時間を柔軟に調整できることの優先度が高い。自分のペースで働きたい人は、キャリアアップよりも与えられた仕事をコツコツとこなすことを望む。学生や資格取得を目指し勉強中の人は、勉強の合間に働ける仕事を選びたい。あるいは、一家の家計を主に支える働き手であればできるだけ多く稼ぎたいし、正社員になりたい人もいる。 このように、非正規社員は人事制度に対するニーズが多様である。 一方で、外部環境の影響も非正規社員の人事制度設計をさらに難しくしている。 たとえば、先にも述べた人手不足について、有効求人倍率は2018年1月時点で約1.6倍、パート・アルバイトに限定すれば約1.8倍であり、過去5年以上にわたって上昇傾向が続いている(※1)。また時給単価も高騰しており、最低賃金は過去5年間2~3%ずつ上昇、パート・アルバイトの募集時平均時給は3年で約7%上昇した(※2)。さらに、働き方改革や同一労働同一賃金等、政策・法制度への対応なども、複雑性・多様性が増えている要因となっている。このことが、経営に与える影響には、以下のようなことが考えられる。 ① 品質・顧客満足の低下: 非正規社員は店舗や接客サービスなど、最も大事な現場の第一線を支えていることが多く、人手不足は業務・サービス品質や顧客満足の低下に繋がる可能性が高い。 ② コストの増加: 採用における求人広告費などの直接コストだけでなく、採用担当者の業務工数などの間接コストも増える。また人数が多い場合、一人あたりの時給アップ額が小さくても全体としてはレバレッジが大きく、総人件費の増加に繋がりやすい。 ③ 機会の損失: 営業時間の短縮や店舗の閉店は、既存の売上機会を失うことに直結する。また新規出店時に必要なスタッフが集まらずに事業の成長・拡大のボトルネックになる。さらに、人手不足の状況で無理に現場を回そうとすると、離職率が高くなり、新たに人材採用が発生し、一から教育するための時間的ロスも発生する。つまり、現状のまま何も手を打たなければ、近い将来、経営が成り立たなくなることが十分考えられる。 非正規社員の人事制度は、ここまで述べたような様々なニーズや社会の変化に対応するものでなければ、経営に大きなマイナスインパクトを与えることになる。しかし見方を変えれば、自社が求める人材のニーズに合った人事制度を設計すれば、他社との差別化になり、現場の生産性があがり事業の競争力を強くすることができる。 家具販売大手のイケア・ジャパンはいち早く同一労働・同一賃金を取り入れ、フルタイム・パートタイムに関わらず全従業員を正社員にする人事制度を導入し、求める人材の確保に成果を上げた。小さい会社でも、パプアニューギニア海産という会社が「好きな日に出勤、欠勤(連絡の必要なし)できる」「出勤時間、退勤時間も自由(毎日変動可)」といった“フリースケジュール制”を導入し、従業員の定着率を高め、業務の習熟度が高まることで生産性も向上させた例がある(※3)。 また保育士不足で悩んでいたある保育園では、育児中の子供を入園させ、同時に保育士として勤務してもらう条件で募集したところ、想像以上に多数の保育士経験者の応募があり、新たな保育所の新設が可能になったという例もある。 これらのケースに共通するのは、働く人の多様なニーズと自社が求める人材とがマッチする制度を設計したこと、そして経営課題解決のための重要施策として位置付けたことである。これは、非正規社員のマネジメントは一つの人事課題ではなく、経営課題として取り組んでいくことの重要性を示していると言えるだろう。 一昔前、「非正規社員は雇用の調整弁」という考え方があり、長期勤続と成長を目指した人事制度を整備する会社は少数である。しかし、多様な働き方が当たり前になった今、非正規社員の人事マネジメントは収益力と成長力のKSF(Key Success Factor):重要成功要因の一つであることは間違いがない。 【参照】 ※1:厚生労働省 一般職業紹介状況 ※2:(株)リクルートジョブズ 2017年12月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査 ※3:(株)パプアニューギニア海産 ホームページ
コラム 2018年2月13日 服部 篤 人事・労務デューデリジェンス(DD)における「不都合な結果」と「見えない結果」 人事のコンサルティングをしていると、時々気になる場面に出会うことがあります。 最近は企業の株式公開や買収・統合も珍しくなくなってきましたが、その際、重大な人事労務リスクはないか、存在するリスクにどう対応していくかという点もチェックされるようになってきています。このような流れの中、当社も人事労務に関するデューデリジェンス(DD)の依頼を受けることが多くなっています。 私たちがよく遭遇するのは、規則・規定はしっかりと整備されているのに、実際の現場では、かなりルールとは異なる運用が行われており、大きなリスクとなるケースが多いということです。一般的なDDでは、なぜこの様なケースが見過ごされてしまうのでしょうか。 そのヒントはミーティングでのお客様同士の会話にありました。担当役員と人事担当者の方に法令や規程に照らし合わせて、具体的な運用と処理の取り扱いを伺っていた時のことです。 ー役員「この制度の運用はいつも言っていたところなので大丈夫だよな?」 ー人事担当「・・・はい・・・・大丈夫です・・・」 発言が気になったコンサルタントが改めて人事担当者に話を伺ったところ、実は現場からの要請もあり、特に大きな問題はないだろうと例外的な運用を黙認していたとのことでした。DDというこれまで想定していなかった局面で、役員から問題がないことを前提に念押しをされたため、「実は・・」と言いづらかったそうです。 その後、役員にも現場の状況を説明し、対応策を打ったため大きな問題には発展しませんでしたが、現場の状況や担当者の解釈の違いにより、イレギュラーな運用が発生することは、珍しくはないことです。DDという特別な場で役員からの「信頼」がプレッシャーになり、部下が「不都合な結果」を報告しづらい状況を作り出してしまったということでしょうか。 逆に人事担当者の立場からすると、役員に自らの担当領域におけるミスと思われる報告をする事は気が重いかもしれませんが、人事・労務の領域では後からでは取り返しがつかないことも多く、仮に「不都合な結果」であっても、早い段階でリスクが起きそうな具体的状況、原因、対応策を共有できるよう日頃から関係部門や担当役員とのコミュニケーションをはかり、信頼関係をつくっておくことで適切な対応が可能になると思います。 セレブレイン社が行う人事・労務DDでは、規程や制度の整備と運用、時間外労働や36協定などデータで見える項目の確認だけでなく、目に見えにくい結果(インビジブル・ファクター)についても精査を行う場合が増えています。例えば、「制度や規程の現場における運用状況、経営方針の組織末端への浸透度合い、企業特有の社風や価値観、退職者の多い部門や職種とその理由、会社に対するコミットメントの度合、社内研修の具体的内容と効果、中間マネジメント層の力量など」です。 その理由は、株式公開や買収、統合は、それ自体が目的ではなく、その後の事業の発展と成長を見据えて行うものだからです。ところが、M&A後の組織人事統合がうまく進まず、事業のシナジー効果がなかなか生まれてこない企業が多いことも事実だからです。 組織と人がもつポテンシャルや活性度をうまく生かすことが、その後の企業の先行きを左右するだけに、今後ますます見えない結果を明確にする人事・労務DDのニーズが高まってくるといえます。
コラム 2018年1月11日 HR Techサービスが組織・人事そして経営にもたらす変革 HR Techのサービスは多岐にわたり、採用やタレントマネジメントをはじめ、人事評価、給与計算、勤怠管理、ラーニングマネジメント等さまざまな領域のサービスが提供されています。前回のコラムで紹介した”HR Technology Conference & Exposition”のような大規模イベントが世界各地で開催されており、その規模も年々大きくなっています。国内でもテクノロジーを活用した新しいサービスが増えており今後の組織・人事のあり方について避けては通れないテーマとなってきました。 そこで今回は、HR Techサービスが組織・人事にもたらす変革についてご紹介します。 1.人事データの一元化・分析 2.オペレーション業務効率化 3.組織活性化