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筋トレでAIを使いこなす!

筋トレでAIを使いこなす!

「AI」というワードもすっかり耳に慣れ、毎日10回は聞いているのではないかというほど一般的な言葉になってきました。その一方、何でもAIに結びつけられて、かえってよくわからなくなってきているというのも実感でしょう。

私たち人事コンサルティングの現場でも、社員の採用、育成、配置、リテンション、エンゲージメントの向上などの領域で、従来の経験や勘だけではなく、多様なデータを分析して政策を決定していこうとする潮流が生まれ始めています。そのカギを握るのが「AI」を装備したツールといえます。

思い起こせば10年ほど前にはBIというワードでいくつものソフトウエア製品が発表されました。BIとはBusiness Intelligenceの略語で、Wikipediaでは「企業などの組織のデータを、収集・蓄積・分析・報告することで、経営などの意思決定に役立てる手法や技術のこと」と説明されています。

一方AIはArtificial Intelligenceの略で、人工知能とも言われ、「言語の理解や推論、問題解決などの知的行動を人間に代わってコンピュータに行わせる技術」という説明になっています。

こうして並べてみると、その内容はかなり異なりますが、明確に違いを認識している人は少なく、何となくデータを分析して状況を可視化するというイメージでとらえられているのが多数でしょう。

本コラムでは、世の中のトレンドワードを追いかけているだけでは、大事なことを見落としてしまう可能性があるということを伝えたいと思います。現在BIは話題性では下火になっているように見えますが、その考え方や役割は今でも十分に通用するものです。AIも将来は世の中を大きく変えるかもしれませんが、現段階ではそれで全てが解決するというものではありません。

つまり、もっと本質的な部分を理解し取り組んでいかなければ、新しいテクノロジーやコンセプトも本当に役立つ道具として使いこなせないまま、一時の流行として終わりかねないということなのです。

そこで浮かんだのがAIを使いこなして行う「データ分析」を「筋トレ」と見立てると非常に似ているという発想でした。

最近コンサルティングの現場においてHRテックに関連した相談を受ける実情を踏まえると、データ分析に基づいた意思決定を行う作業は、毎日筋トレをするようなものであり、一朝一夕に大きな効果を得ることは難しいが、目的を達成するにためには、次のような避けて通れない地道なプロセスやルールが存在するということです。

1.背伸びは怪我のもと

今まで何もしていなかった人が、いきなり50キロのバーベルに挑戦することは無謀です。最初は10キロくらいから始めて基礎体力をつけ、徐々に負荷を上げていかないとケガをします。

人事におけるデータ分析も同じです。最近は、声や表情などの生体情報、アンケートや日報などのテキスト情報、ミーティングやメールの活動情報など、新しい切り口での情報分析が期待を集めています。しかし、やみくもにそれらのデータを分析すれば答えが浮き上がってくるものではありません。そもそも分析のためのデータを適正に整理すること自体が難しいのです。

実際にピープルアナリティクスの最初にして最大の敵は、対象データを特定して収集し、分析できる形に整えることです。前述のデータはいわば上級者向けです。まずは基礎体力ともいえるデータ分析ができるようになったうえで更に精度を高めたり、隠れている因子を見出したりする際に必要になる可能性があるものです。かといって基礎体力をつけるのも易しくはありません。従来の個人別属性、適性テスト、評価、研修実績、勤怠・人事評価・給与・異動、所属・職歴など、既に持っている情報をデータとして整え、さらに従来の経験と勘を組み合わせることで、今まで感覚的にしか捉えられなかった、例えば社員のモチベーションやパフォーマンスの傾向をより客観的に把握できることが可能になります。まずは基礎的な分析ができるようになれば、その先に道は開けてくると言えます。

2.継続をなくして目的に至らず

筋トレは、最低週2回は実施しないと効果がないと言われています。自身の経験からも体重が増えたときにだけ思い立ってトレーニングやダイエットをしても自己満足にしかなりません。

データ分析も大きな問題が起きたときだけ調査を行い、分析をしても、結局は事後対応であり、手遅れ感は否めません。理想はその兆候を察知して事前に手を打つことです。

1年に1回形式的にデータを集めて結果を確認するだけでは有効な施策につながりません、四半期や月次で推移を見守り、異変を察知してあらかじめ手を打っていれば、より良い結果になった可能性が高いのです。ダイエットの秘訣も毎日、万歩計と体重計の目盛りに気をくばることと同じですね。

3.目標を達成する価値

継続が大事とわかっていても難しいのが現実です。筋トレを毎日のタスクとして自らに課しても、なかなか長続きしません。その先の目標や目的があるのとないのでは継続するモチベーションが全く違います。ゴルフでもっと飛距離をアップさせたい、トライアスロンの大会に出場するなど、具体的な目標があることで日々の筋トレもやる気が出るというものです。

会社でいえば、業績向上につながるということが一番分かりやすい目的でしょう。社員のモチベーションアップや従業員満足度の向上、それ自体は悪くありませんが、その先にある具体的な結果に結びついていると、データ分析による意思決定の重要性や有効性を皆で共有することができます。

例えば、「生産性の高い社員の働き方の特徴は?」、「好業績を上げる社員と伸び悩んでいる社員の違いは?」、「幅広い仕事に対応し生産性が高い組織の風土は?」など、会社や組織の業績向上に直接結び付くテーマを設定し、改善施策につなげていくことが、データ分析を本気で進めていくパワーになると思います。ちなみに現在私たちが取り組んでいるのは、より高いフィーを稼ぎ出すITコンサルタントの因子を抽出し、配置と育成政策に反映させるお手伝いです。

4.裏付けのない定説に惑わされない

以前、体育の時間や運動部では、基礎体力強化の手段として「走るときに水を飲んではいけない」、「足腰を鍛えるためにうさぎ跳びで校庭を3周」という指導が当たり前に行われていましたが、今ではそれらは間違ったやり方という考えが定着してきました。

仕事の現場でも同じようなケースがあるかもしれません。「営業はとにかく件数を回れ」、「ミスを減らすためにペナルティを設ける」、「研修を多く受講させれば効果があがる」などです。それ自体はある程度の真実を含んでいるのかもしれませんが本当に有効な施策か検証されているのでしょうか。

優秀な営業スタッフは案外訪問件数が少なく、受注の可能性が高い客先を見極め効率的にコンタクトしている。ミスの件数や管理を一生懸命行っている部署より、上司と部下のコミュニケーションが多い部署の方がミスは少ない。成績が伸びている社員は、部門横断のチームセッション型研修受講者に多い。こんな分析結果が見えてくると、より効果的で具体的な施策が考えられそうです。

5.専門家の知見を利用する

筋トレもトレーナーに指導を受けると大きく効果が異なります。腹筋を鍛えるのも、腰を痛めないように体をロールアップする方法やジムで器具を使うトレーニングの知識があっても実際に指導を受けると全く違った感覚があることに気づかされます。

高業績者の特徴や退職者の兆候には、ある程度共通の傾向はあります。ところが、例えば時間に関連するデータから部署内の風土と合わせて、出勤時刻や残業時間の分析により今まで気づかなかった因子が見つかるかもしれません。

目標を達成するためには様々な視点からデータを読み、仮説を立て、課題を特定し、検証していくプロセスを着実に進めていく必要があります。そこでは、必要な情報の収集、整理、データ化と分析のための統計的な理論と実践に知見のある専門家(データサイエンティスト)の支援が有効です。

今や世界の市場を席巻するGAFAが代表格と言えますが、近年日本でも、データの取り扱いのプロフェッショナルであるデータサイエンティストを雇用する会社が増えてきましたが主なフィールドは、マーケティングや営業、R&D、生産や物流などです。会社の生産性に大きなウエートを占める人材や人事の領域に精通したデータサイエンティストはごく少数の先端的な企業に限られています。

その意味では、まず企業の上級マネジメントクラスからデータ分析に対する意識の改革から始める必要があるかもしれません。弊社では、ビジネスの意思決定におけるデータ分析にAIを活用するスキルを身に着けるアナリティカル・シンキング・トレーニング(ATT)を展開しています。そこではデータ分析の基礎だけではなく、経営や業務における課題を特定して解決の糸口を見出すアプローチについて理解を深めていただきます。またAIツールを使って実践体験できるプログラム構成となっているので、そのような機会をうまく利用することも一つの選択です。

まずは、筋トレと同様に地道に目の前にあるデータをきちんと整理して分析する。そこから見えてきた事象からさらに必要なデータを取って分析して目標達成や課題解決に最も効果的な策を打つ。AIもBIもそのための便利な道具として使いこなす風土ができれば、会社の成長や目標達成に大きく前進するでしょう。

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